研究課題/領域番号 |
20H02469
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
高際 良樹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 独立研究者 (90549594)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 熱電材料 / 発電モジュール / 電子状態計算 / フォノン計算 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目標は「鉄・アルミニウム・シリコン系新規温度差発電材料(FAST材)」を基軸として、ビスマス・テルル系既存材料に匹敵する出力特性を達成し、室温での微小温度差発電を可能とする新材料を創製することである。対象となるFAST材はFe3Al2Si3相を主相とする。Fe3Al2Si3相は広い生成組成域を有し、AlとSiを20at%程度置き換えることができる。この特徴を活かしてAlとSiの割合を変えるだけで、フェルミ準位を価電子帯から伝導帯まで連続的に変化させることにより、P型およびN型FAST材の作り分けが可能となる。また、重元素を含まない合金系であるにも関わらず、複雑な結晶構造を有することに起因して比較的低い格子熱伝導率を示すことが特徴である。 初年度は、FAST材の量産化技術を構築した。高周波溶解法とガスアトマイズ法の併用により、均質化による性能向上と合成量のスケールアップを同時に達成した。また、第一原理フォノン計算によりFe3Al2Si3相のフォノン分散関係を明らかにし、格子熱伝導率を低減するための材料設計指針を得ることができた。現在、その妥当性を検証している。さらに、第一原理計算を用いた網羅的スクリーニングにより、性能向上に資する第四元素の候補を選定している。四元系以上の多元系においては状態図もより一層複雑になることから、最適組成の探索は困難になることが予想される。我々はFAST材の性能向上に機械学習(ベイズ最適化手法)が有効であることを明らかにしており、計算科学・実験・機械学習を相補的に用いた統合型材料研究を遂行している。 また、小型・高集積温度差発電デバイス(50対100個のFAST材を集積)の試作を行い、発電実証試験を実施した。室温からの温度差5℃にて70μW、20℃の温度差で1mW、110℃の温度差で解放電圧1Vおよび30mWの出力を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「鉄・アルミニウム・シリコン系新規温度差発電材料(FAST材)」を基軸として、ビスマス・テルル系既存材料に匹敵する出力特性を達成し、室温での微小温度差発電を可能とする新材料を創製するという挑戦的な目標に向けて着実に研究が進展している。本年度は社会実装に向けて重要な課題であったFAST材の量産化技術を構築した。学術的には、電子状態計算およびフォノン計算から材料特性を向上させる指針を得つつあり、その妥当性の検証を進めている。また、発電モジュール化技術に関しても企業との共同研究を遂行している。さらに、第四元素の添加に関する実験と機械学習による最適化、性能向上への道筋も立てていることから、進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで用いてきたアーク溶解法による合成方法では目的相の単相化は容易ではなく、第二相として金属相であるε-FeSiが析出する。そのため、現状では理論計算から予測されるSeebeck係数の値を下回っており、出力特性が低下する主な要因となっている。FAST材の出力性能を向上させるためには、高純度化および精密なキャリア濃度調整が必要となる。第一原理計算からは、P型・N型ともに150μV/Kを越える高いSeebeck係数が得られることが予測されており、本年度は新たにメルトスピン法を導入した合成プロセスを用いて、室温で150μV/Kを越える高いゼーベック係数を有するFAST材の創製を目指す。 本年度も引き続き、計算科学・実験・機械学習を相補的に用いた統合型材料研究を遂行する。具体的には、第四元素の選定およびそのドーパント濃度の最適化を行い、発電性能を向上させる。併せて、実験的に合成可能なバルクコンビナトリアル手法の構築を行い、モジュール化技術をさらにブラッシュアップさせる。
|