本研究課題の目標は「鉄・アルミニウム・シリコン系新規温度差発電材料(FAST材)」を基軸として、ビスマス・テルル系既存材料に匹敵する出力特性を達成し、室温での微小温度差発電を可能とする新材料を創製することである。対象となるFAST材はFe3Al2Si3相を主相とする。Fe3Al2Si3相は広い生成組成域を有し、AlとSiを20at%程度置き換えることができる。この特徴を活かしてAlとSiの割合を変えるだけで、フェルミ準位を価電子帯から伝導帯まで連続的に変化させることにより、P型およびN型FAST材の作り分けが可能となる。また、重元素を含まない合金系であるにも関わらず、複雑な結晶構造を有することに起因して比較的低い格子熱伝導率を示すことが特徴である。 現状では理論計算から予測されるSeebeck係数の値を下回っており、出力特性が低下する主な要因となっている。FAST材の出力性能を向上させるためには、高純度化および精密なキャリア濃度調整が必要となる。第一原理計算からは、P型・N型ともに150μV/Kを越える高いSeebeck係数が得られることが予測されている。最終年度は冷却速度が比較的早く、量産化がある程度可能な傾角鋳造法にて合成したP型およびN型FAST材の精密組成制御を行い、熱電特性を最適化した。その結果、P型・N型ともに130μV/Kを越える高いSeebeck係数が得られ、結果としてこれまでよりも高い電気出力因子が得られた。現在、ホール効果測定によるキャリア濃度と移動度の評価を行っており、実験により決定したキャリア濃度と第一原理計算から予測されたキャリア濃度の最適値との比較により、最適化がどの程度まで行われているかを判断することができる。 さらに、FAST材を用いた高集積温度差発電モジュールの発電試験や実証試験を行い、実装化に向けた課題を抽出した。
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