研究課題
外科手術後の創部への貼付を目的とした医療用シートは一定の性能・効果はあるものの、術後の湿潤環境における組織接着性、生体親和性に課題がある。本年度は昨年度に引き続き、分子量が40,000 g/molであるスケトウダラ由来ゼラチン(ApGltn)のアミノ基に炭素鎖長10のデシル基を修飾した疎水化ApGltn(C10-ApGltn40)を合成した。得られたC10-ApGltnを用いてエレクトロスピニング法によりシートを作成し、水濡れ性を改善するためにUV照射を行った。電子顕微鏡で表面を観察するとUV照射の有無で顕著なマクロ構造の変化は確認されなかった。また、C10-ApGltn40シートのUV照射時間に対する水接触角測定の結果、照射時間依存的に表面の親水化が認められた。更にX線光電子分光法による表面分析の結果、UV照射後に親水基が導入されることが明らかとなった。一方、ブタ胸膜に対する接着強度はUV照射時間60分の条件が最も高く、UV照射を行うことで3分以内に最大接着強度に達することが明らかとなった。また、耐圧強度試験後のシート-ブタ胸膜界面を観察すると、UV照射を行ったC10-ApGltn40シートのみ、試験後もシート-ブタ胸膜界面が密着している様子が認められ、高い界面接着性が明らかとなった。UV照射後のシートは、Org-ApGltn40およびC10-ApGltn40シートのいずれの場合にもほぼ同じ速度でコラゲナーゼによって酵素分解されることが明らかとなった。また、L929繊維芽細胞との相互作用を評価した結果、UV照射後のシートは、細胞接着数については、ApGltn40およびC10-ApGltn40シートで差は認められなかったが、24時間培養後については、UV照射を行ったC10-ApGltn40シートが有意に高い細胞数を示すことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた「接着メカニズムの検討」については、耐圧試験後のシート-ブタ胸膜組織界面の観察により確認できた。また、「シート上での細胞培養試験」については、UV照射したシートの繊維芽細胞の培養を行い、UV照射したC10-ApGltn40シートの細胞増殖促進効果を見出した。更に、「シートの分解性評価」については、Org-ApGltn40およびC10-ApGltn40シートのいずれの場合にもほぼ同じ速度でコラゲナーゼによって酵素分解されることが明らかとなったことから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
当初予定していた研究計画はおおむね順調に進展している。今後は疎水化タラゼラチンに架橋剤を分子レベルで分散させたシートについても検討を行い、生体軟組織により強固に接着し、抗がん剤を徐放できるマトリックス担体の設計を推進する。
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