2022年度は、2021年度実施予定であったものの、新型コロナウイルス感染拡大による材料調達への影響で延期していた大型試験片の実機試作を行った。実機試作は共同研究を行う民間企業にて行い、前年度に小型鋳塊(1 kg)を用いて組成および熱処理(焼入れ・焼戻し)条件を検討し、実験室レベルにて粉末冶金材と同等の高硬度が得られた合金を対象とした。高周波誘導溶解法により溶製した30 kg鋳塊を実機設備を用いて熱間鍛造・圧延により丸棒材を作製した。併せて上記と同様の工程にて作製した基本組成であるFe-16Cr-3W-2Cu-1C (mass%)合金の丸棒材も用意し、同一の条件にてそれぞれ焼入れ・焼戻し熱処理を行った。 得られた試験片において基本組成では焼入れ時に発生した残留応力によりクラックが形成したが、新組成では焼入れまま材においてもクラックは観察されず、小型鋳塊の結果を基に最適化した組成・熱処理条件にて実機製造が可能であることを確認した。なお、大型鋳塊から最終的にφ40 mm円板試験片を作製したが、小型鋳塊から得られた試験片よりも低い硬度を示した。これは試験片サイズに起因した冷却速度の影響を示唆しており、実機製造における課題と将来的な合金組成の更なる最適化について有用な知見が得られた。さらに、本研究にて導入したトライボメータを用いてジルコニアボールを相手材としたピン・オン・ディスク試験を室温にて実施し、作製した試験片の耐摩耗性評価を行った。組成の影響、さらに新組成に関しては焼入れ状態と焼戻し状態における結果を評価・比較することで未解明であった開発合金の基本的な摩耗挙動・特性を明らかにすることができた。
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