研究実績の概要 |
本研究では、酸素が及ぼすステンレス鋼粉末特性、溶融挙動、造形性、造形体の力学特性への影響を学術的かつ系統的に明らかにすることを目的とする。積層造形用粉末機能、粉末リサイクル性、造形性、力学的性質を重畳して向上することを目指し、積層造形技術の基盤となる学術の発展に貢献する。これまでの研究において、ステンレス鋼粉末に酸化処理を施して造形を行ったところ、Si Mn系の球状酸化物分散が達成されるが、強度増加には至らなかった。令和4年度は、ガスアトマイズ法によりSi, Mnを低減したステンレス鋼粉末を準備し、これに酸化処理を施した粉末を用いてレーザ積層造形を行い、組織と機械的性質の評価を行った。造形体の相対密度とエネルギー密度の関係を調べた結果、粉末酸化処理の有無であまり差異が見られず、適切な造形条件では99.5 %以上の相対密度を示した。造形体内部を走査型電子顕微鏡により観察したところ、10 μm程度のCr系酸化物が形成している事が分かった。電子線後方散乱回折法により造形体の結晶方位分布を解析した結果、造形方向に対して垂直断面ではハッチ間隔に相当する正方形の領域が2次元的に配列していることがわかった。造形方向に対して平行断面では、造形方向に伸長した柱状組織が配列されている様子が観察された。FE-SEMにより詳細に観察したところ、L-PBFプロセスに特有な500 nm程度のセル状構造が広範囲にわたって形成し、10-100 nm程度の微細な酸化物がセル状構造の境界付近に多く分散していた。以上より、2種類の酸化物を造形体内部に分散させることに成功した。引張試験の結果, 酸化Si, Mnを低減した造形体では引張強度が増加する一方で、降伏応力と伸びが減少することが明らかとなった。
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