研究課題/領域番号 |
20H02475
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
南部 将一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00529654)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 鉄鋼材料 / マルテンサイト変態 / ベイナイト / 組織制御 / 3次元組織観察 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,次世代高強度鋼の更なる性能向上を達成するための組織制御指針の構築のため,ベイナイトやマルテンサイトの生成箇所や生成時における結晶学的特徴,形態学的特徴,幾何的特徴について3次元組織解析による評価を行うことで検討し,鋼のせん断型変態における組織形成過程および変態機構を明らかにすることである。2020年度は,「変態初期に粒界から生成する上部ベイナイトの3次元組織」についてデータ取得,解析を行うことで結晶学的,形態的特徴を検討した。 供試鋼として0.4C鋼を用いて,上部ベイナイトの変態初期の組織観察を行った。3次元組織観察では,約1~2μmの一定の研磨ステップで研磨を繰り返し,1ステップごとの光学顕微鏡観察及び5~10ステップ程度ごとのSEM観察またEBSDによる結晶方位解析を行った。3次元像構築においては,3次元構築ソフト(Avizo)を用いて3次元組織を作成した。 2次元観察では一つの旧γ粒中にベイナイトが生成しているように観察される場合であっても,シリアルセクショニングすることで粒界の両側に羽毛状に生成していることが示された。さらにシリアルセクショニングのデータをもとに構築された3次元組織からある1か所において接していることが示された。またEBSD解析からそれぞれの旧γ粒に生成しているベイナイトは同じ結晶方位であったため,粒界の両側のベイナイトの結晶方位関係について調査したところ,結晶方位差の小さい組合せであることが分かった。さらに結晶学的な解析を行うことで,バリアント対の外形変形方向が互いに平行に近い粒界でベイナイト生成の割合が高いことが示された。こうした結晶方位のベイナイトが生成することで変態に伴う変形を緩和することができると考えられ,隣接するγの結晶方位がベイナイト生成に影響を与えることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変態初期のオーステナイト粒界から生成するベイナイトについて,上部ベイナイトの初期変態における3次元組織像の取得に成功しており,また3次元組織を構築することで,従来の2次元観察では把握できていない粒界での連結についても明らかにすることができることなど,3次元観察によって新たな知見を得ることに成功しているため。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は引き続き,「変態初期に粒界から生成するベイナイトの3次元組織」について実験および考察を実施する。具体的にはよりベイナイト変態率が小さいサンプルに対して組織観察を行い,粒界から生成した直後のベイナイトに対して3次元観察を行い,ベイナイトの核生成時における組織形成,結晶方位選択などについて明らかにする。さらに生成した粒界,生成していない粒界の性格について定量評価を行い,ベイナイト生成に有意な粒界の情報を明らかにする。また,同様な検討を変態温度が異なる下部ベイナイトについても行う。 その後,「2次生成したベイナイトの3次元組織」について検討する。ベイナイトの階層組織であるブロックの隣接傾向は変態温度や合金元素によって異なることが知られている。しかしこのような隣接傾向は変態の2次生成に起因するのかは明らかでない。そこで前年度の鋼試料を用いて,ベイナイト変態率が10~20%の熱処理を施し,粒界から生成したベイナイトから2次生成したベイナイトについてその3次元組織を解析する。ここでは特に変態温度によってベイナイトブロックの隣接傾向が異なることへの理解や,3次元的な空間をどのように埋めていくのかについての知見を得るため,1次生成したベイナイトととの結晶方位関係,幾何的な条件,2次生成頻度と間隔などに着目し,検討を進める。以上より,ベイナイト+残留オーステナイトからなる複相組織の組織制御指針の構築を目指す。また,「マルテンサイト変態の変態初期組織の3次元解析」を行い,完全な無拡散変態であるマルテンサイトの初期の生成挙動についても同様に検討する。
|