研究課題/領域番号 |
20H02487
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
赤松 謙祐 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (60322202)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電気めっき / 高分子電解質 / 固相電析法 |
研究実績の概要 |
本課題においては、陽イオン交換膜を固体電解質として用いた固相電析法(Solid Electrochemical Deposition:SED )における銅被膜析出挙動の解析を行った。固相電析法はナフィオン膜を固体電解質として利用し、電解質膜内おけるイオン輸送により金属皮膜を形成する手法である。この手法の利点は、一般的な液相電析法とは異なりカソード側に固体電解質膜を利用しているため、廃液を産出することなく部位選択的に金属皮膜を形成できる点にある。しかしながら、本手法に関する基礎的な知見は少なく、高速成膜を安定に行い、皮膜を均一に析出させる条件を明確化するには、電解質膜と溶液の界面イオン輸送のメカニズム解析が必須である。 本年度は、電解質膜とアノード間に電解質溶液を充填し、固ー液界面を導入した系についてイオン輸送モデルを構築し、速度論的解析を行った。前年度における解析により、律速反応は溶液から電解質膜へのイオンペネトレーションであることが明らかとなっており、今回構築した反応式は1回非線形常微分方程式となり、数値解析によってペネトレーション反応およびめっき反応の速度定数を算出した。その結果、電解液層の厚みを変化させた際の定常電流をシミュレーションすることに成功した。さらに、本法を利用して酸化銅などの半導体皮膜を作製することにも成功した。 また、本系における電極系において、電解質層厚みを変化させてセル定数を求めたところ、電解質層厚みに対して直線性が得られた。得られたセル定数を速度式に導入することにより、これまでアノードを電解質膜に接触させた系のみにて成立していた反応速度式を一般化(電解液層の有無を内包した一般式)することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、初年度において「電解質膜とアノードを接触させた電極系」における反応速度解析を行い、1回線形常微分方程式を解くことで解析解を得、各種反応速度定数を求めた。これにより、SED法におけるメカニズム解析に成功し、反応速度シミュレーションを行うことが可能であることがわかった。対して2年目である令和3年度においては、よりイオン供給速度の増大を試みることで定常電流の最大化が図れると考え、電解質膜とアノード基板との間に電解液相を設けることにより、固ー液界面の面積を大きく設定した。その結果、予想通り定常電流値は20%以上増大し、SED法のさらなるポテンシャルの発見にいたり、固ー液界面を導入した本系の反応速度式を立案し、数値解析により速度定数ならびに活性化エネルギーの算出に成功している。 以上のように、研究計画の目標はこれまでの研究で達成しつつあり、当初予定にはなかった改良型の反応系を構築することで本法のポテンシャルの向上に関する端緒が得られた。また、本手法の汎用性を評価するため半導体皮膜の作製を試みたところ、添加剤を含む系において結晶性酸化銅被膜の作製にも成功している。以上の結果より、現時点で研究は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究において、SED法における反応メカニズムおよび反応を支配する主因子が明らかとなりつつあるが、測定アウトプットが電流値およびその時間変化のみとなっており、めっき反応中の電解質膜内におけるイオン輸送に関する知見が少ないと考えている。そこで最終年度である本年度は、電解質膜内の銅イオンの輸送挙動をin situ解析することで、実際の銅イオン濃度の時間変化について、シミュレーションから得られる情報と比較検討することで解析を行う。具体的には、電解質膜を電極でサンドウィッチした系について、電極面に対して水平方向に小型ファイバーから可視光を入射し、電流と垂直の方向に通過する光の吸収をCCDカメラで追跡することにより、膜内の銅イオン濃度変化をin situ測定する。これにより、理論モデルの妥当性を検証することができ、SEDシステムの優位性ならびに実用性について評価することが可能となり、次世代の超高速めっき技術の開発につながると期待できる。
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