研究課題/領域番号 |
20H02488
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
上路 林太郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主幹研究員 (80380145)
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研究分担者 |
田中 克志 神戸大学, 工学研究科, 教授 (30236575)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 組織制御 / 相変態 / 応力 / 鉄鋼材料 / 構造材料 / パーライト / オーステナイト / 高温変形 |
研究実績の概要 |
鉄鋼材料の機械的性質向上に有効な加工熱処理プロセスにおいて、そのプロセス条件の最適化に必要な応力と変態の相関について、炭素鋼に焦点を絞って系統的実験を行い、降伏応力以下の外力による拡散変態促進のメカニズムを解明し、不均一応力場を利用した新しい組織制御法を確立することを目的とする。 実用鋼の一種であるばね鋼(Fe-0.53C-1.5Si-0.8Cr-0.7Mn)に対して高温圧縮試験機を用いて変態挙動を研究した。950℃から1200℃までの各種温度でオーステナイト(γ)化熱処理し、変態温度に急冷し保持開始直後に圧縮応力(0~100MPa)を付与した。二次元計測装置により計測した均熱等荷重保持中の体積変化と組織観察から相変態挙動を明らかにした。γ化熱処理条件を変化させることにより種々の平均γ粒径(18μm~173μm)における応力ー変態相間データを取得できた。γ粒径に依らず、(1)拡散変態促進に必要なしきい応力(550℃において70MPa)が存在すること、および(2)しきい応力以上の負荷を与える場合、変態の潜伏時間と応力の関係は活性化体積を用いて記述できることが初めて明らかになった。このことは、マクロな降伏応力以下の負荷であっても、転位運動等による組織変化が変態を促進することを示唆している。また、弾性定数測定に関して、鉄系サンプルで高温時の弾性定数測定を可能にする測定系を構築した。 本研究では多結晶体を取り扱うため、結晶粒ごとの外力負荷時の応力状態の違いを知る必要がある。マルテンサイト変態が室温変形中に生じ、母相γと生成相を同時に観察できる低合金ベイナイト鋼の引張変形前後の集合組織変化の詳細を研究した結果、変態発現の有無は、母相γの弾性異方性によって決まる個々の粒の有効ヤング率に強く依存する応力分配が大きな影響を有していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
応力負荷時の変態挙動は、体積測定等の当初予定していた方法により計測することが可能であった。グラフプロットの仕方や解析の前提となるモデルを種々用いてデータを検討することにより、種々の応力による潜伏時間の短縮が発生するメカニズムを解明のキーとなる特徴(しきい応力、活性化過程の存在)を見出すことができた。特に、ミクロな塑性変形が関与している可能性を知ることができたことは大きな進展で、例えば変態温度を変化させた際に降伏強度の温度依存性と関連させて考察することが可能となるなど、メカニズム検討を進めることができた。弾性定数測定に関しても、既存装置を改造して鋼の等温保持変態前後の弾性定数が計測できる測定系を計画通りに構築できた。また、温度勾配下における熱処理と負荷を可能とする実験環境を前倒して整備した。 特に本年度は、負荷時の多結晶体の応力状態に関する新知見も獲得できた。これは当初の計画にはなかったが、同僚や学会における議論によるところが大きく、期間内に新たに着想を得て追加で研究を行った。得られた応力分散に関する知見は変態促進に必要なしきい応力とマクロな降伏応力との相関に関する理解につながるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
「母相の温度-弾塑性変形関係」に関する定量データ収集を行い、前年度収集した「応力-拡散変態相関」に関するデータと合わせて、温度勾配下における変形とその後の相変態挙動を予測するための基盤データ収取を進める。前年度同様に炭素鋼(ばね鋼等)を用い、変態挙動の計測は前年度用いた環境を利用する。温度-弾性変形関係に関しては、前年度整備した弾性定数測定系を用い、鋼の準安定γにおける弾性定数の共振法による精密測定を試みる。準安定状態は過冷却状態で短時間(数秒~数百秒間)程度しか得られないため、その測定には困難を伴うことが予想されるが、母相γ粒粗大化などの組織制御や、最悪の場合はMo添加などの合金成分調整により、潜伏時間を確保する工夫をして対応する。温度-塑性変形関係は高温圧縮試験により明らかにする。 上記に加えて温度勾配下の圧縮・相変態挙動を明らかにする。上記データ収集で対象としたものと同じ組成を有する炭素鋼(ばね鋼等)を用いる。圧縮試験片としてはやや大きなアスペクト比を有する試験片(長さ40mm程度×直径8mm程度)に対して、形状の異なる加熱コイルを用いて温度勾配を付与した上で圧縮・相変態挙動を明らかにする。今年度は特に、降伏応力以下の応力負荷(あるいは無負荷)状態における温度勾配下変態挙動に焦点を絞り、均一温度場における変態挙動との違いの明確化を目指す。最終的には、応力ー相変態相関が生じるメカニズムに基づいて、不均一温度場や不均一塑性変形に起因する応力場を利用した鋼の組織制御方法の確立を目指す。
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