これまでに得られた応力ー変態挙動の相関を参考に、不均一応力場を有する試験片の相変態挙動の測定を試みた。不均一応力場は温度の不均一を有する平滑試験片に加えて、各種の円周切欠きを有する試験片を利用した。実験用素材としては、これまでに用いてきたものと同じ、ばね鋼(JIS-SUP12)を用いた。各種条件(1000℃~1200℃)でオーステナイト化の後、変態温度(550℃)近傍に急冷し保持開始直後に均熱を保持したまま各種応力を付与する実験を行った。平滑試験片の場合は、試験片と圧縮工具の接触部において拡散変態が促進された領域が生じる不均一組織が観察された。一方で、切り欠き試験片を用いた試験では応力分布は得られるものの、切り欠き部の温度が上昇し結果としてパーライト変態途中であっても試験片全体が均一な組織となった。また、同一のばね鋼を用いてベイナイト変態の応力依存性を実験により検証したが、パーライト変態と比較すると同じ応力で比較した場合、潜伏時間の加速は小さかった。これは、低温では降伏応力が小さくなるため、変態を加速させる不均一変形が生じにくいためと考察される。弾性定数の測定については、昨年度までに構築した測定装置を利用し、母相の弾性定数を明らかにした。 上記に加えて、拡散変態と応力の関係を考察するために室温で母相オーステナイトを有するTRIP鋼の引張と圧縮時の中性子その場回折実験を行った。その結果、多結晶体の応力分配は応力の極性によらず単結晶の有効ヤング率に支配されること、比較的小さなひずみ(10%程度)であっても一定の集積度を有する変形集合組織が発達し、方位変化の影響を受けて、応力極性に応じた相変態の応力依存性が生じることなどが、新たに分かった。
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