研究課題/領域番号 |
20H02493
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大内 隆成 東京大学, 生産技術研究所, 講師 (50555290)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 貴金属 / リサイクル / 乾式プロセス / 溶融塩 / 電気化学 |
研究実績の概要 |
溶融塩中における金属アニオンの電気化学反応について探求し、その反応を制御することで、貴金属やレアメタルの新規リサイクルプロセスを開発する。貴金属やレアメタルのリサイクルは、一般的に、強力な酸や錯化剤を用いた水溶液への溶解を基本的な手法とする、複雑な湿式処理によって回収及び分離・精製が行われている。湿式法は溶解プロセスに律速される工程時間の長さ、および多量に発生する有害廃液による環境負荷という問題点がある。そこで、本研究では、工程時間が短く、有害廃液の発生が抑えられ、かつ分離・精製を簡便化する革新的なリサイクルプロセスを提案・開発する。金(Au)を例に述べると、電気陰性度の低いNaなどの活性金属と合金化することにより金属間化合物を形成し、溶融塩にAu-のようなアニオン状態で溶解する。本研究では、溶解したアニオンを、電気化学的にアノード析出(Au- = Au + e-)することにより、高速に選択回収・分離する技術を確立する。これまでの研究で、アノード電析法により、Au-Cu合金や多元系合金からAuを選択的に分離可能であることを示した。一般的に貴金属含有スクラップはCuやPbなどのベースメタルをはじめとする多数の金属元素を含むため、貴金属は多数の工程を経て分離・精製・回収される。一方、本研究で開発したプロセスが実現すると、リサイクルプロセスの初期工程で、貴金属を選択的に分離・回収するプロセスが実現可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、アノード電析法により、Au-Cu合金などの数種の2元系合金や多元系合金からAuを選択的に分離可能であることを明らかにした。Auを含む一部の合金をNaと合金化させることで、Auを選択的にNaリッチ層に濃化することができることを実証した。濃化されたAuは溶融塩にアニオンとして溶解し、アノード電析により、Auとして回収できた。多元系合金を用いる場合、電極電位を変化させることで、アノード電析により得られるAuに対する他元素の混入濃度が変化することを実験的に示した。この結果から、適切な電圧をアノードに印加することにより、貴金属を含む複雑な組成のスクラップから貴金属を選択的に分離・回収可能であることが示された。さらに、最近では、貴金属以外のレアメタルへの適用についても検討を進めている。 一般的に貴金属含有スクラップはCuやPbなどのベースメタルをはじめとする多数の金属元素を含むため、貴金属は多数の工程を経て分離・精製・回収される。一方、本研究で開発したプロセスが実現すると、リサイクルプロセスの初期工程で、貴金属を選択的に分離・回収できる可能性がある。 これらの成果および今後の研究の発展性が評価され、2020年度 貴金属に関わる研究助成金 奨励賞 (一般財団法人 田中貴金属記念財団) を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで検証を行ってきたAuのアノード析出反応を利用して、Cu、Pb、Znなど様々なベースメタル製錬・リサイクルプロセスにおいて、含有貴金属を選択的に抽出・直接分離するプロセスの開発を進める。また、貴金属以外のレアメタルの抽出プロセスへの応用を検討する。さらに、複数の貴金属を含む合金から特定の貴金属のみを選択的に抽出・分離する革新的な手法について検討する。従来の貴金属のリサイクルプロセスでは、多種の貴金属の相互分離に、溶媒抽出など多段のプロセスを要している。本研究では、個々の貴金属のアノード析出電位を制御し、複数の貴金属を含む合金から直接、個々の高純度の貴金属を分離するプロセス技術の開発を行う。 溶融塩に含まれる他のアニオン種(Fe-、Cl-、Br-、I-、O2-)の挙動を熱力学的に考察し、プロセスに適した溶融塩を選択する。その選択した溶融塩に対して、対象とする貴金属合金の溶解度を評価する。 さらに、アノード電解析出の速度論的評価に取り組む。電気化学測定により、反応の詳細(電子授受および物質輸送に関する速度論的パラメータ)を系統的に評価・比較することで、高効率で高分離能・高精製能のプロセス設計を目指す。
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