研究課題/領域番号 |
20H02494
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷ノ内 勇樹 九州大学, 工学研究院, 准教授 (40644521)
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研究分担者 |
黒川 修 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90303859)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 黄銅鉱 / 浸出 / 合成鉱物 / 銅製錬 / 湿式製錬 / 走査トンネル顕微鏡 / 表面再構成構造 / 劈開面 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、「①黄銅鉱バルク結晶の作製と材料学的評価」「②浸出反応の電気化学的機構の調査」「③浸出反応界面における組織形成の微視的観察」で構成される。 ①については、緻密な多結晶体の作製法として、パルス通電加圧焼結とアニール処理の組み合わせが有用であることが初年度に確かめられた。本年度は、この手法を基に、結晶粒径の制御と硫化銀の微量添加に取り組んだ。結晶粒径の制御に関しては、焼結の原料粉末の分級や微粉砕による調整が効果的であることが分かった。また、硫化銀微量添加型多結晶体については、純粋な黄銅鉱と同じくn型半導体であることや、硫化銀の固溶限と電気抵抗率の関係を明らかとした。 ②については、黄銅鉱の緻密多結晶体を電極として、典型的な組成・温度の硫酸鉄(III)-硫酸溶液に浸漬した際の銅溶出量と腐食電位を測定した。この際、同一原料から作製した黄銅鉱電極の間で、測定結果にバラつきが生じることが問題となった。そのため鉱物電極の作製法について各種検討を行い、その結果、リード線と硫化物の接続方法などの改善によって測定の安定性/再現性を高めることができた。 ③については、浸出反応界面の高空間分解能観察に向けて、走査型トンネル顕微鏡(STM)観察の適応可能性をより詳細に調査した。超高真空中・低温環境で劈開した黄銅鉱の表面については、数種類の構造があることが明らかになった。超高真空型STMでの観察によって、これらは原子オーダーで平坦であり、またその規則度は高く、理想表面の小規模な再構成表面であると考えられた。また、劈開後の表面を室温まで昇温すると、1原子層厚さの構造の乱れが生じることが分かった。応用上は室温・大気中で劈開した黄銅鉱表面の液中観察が理想となるため、その対応に向けて非超高真空型STM装置の作製にも取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
黄銅鉱のバルク多結晶体について、結晶粒径の制御と異種硫化物の微量添加の基礎を確立できた。また、このような材料学的制御が、結晶構造(XRDパターン)や電気伝導性に及ぼす影響を把握することができた。組成・組織制御型黄銅鉱を電極として用いた浸出反応の解析については、測定結果の安定性/再現性に課題が生じた。リード線の接続といった電極化の方法について種々の検討が必要となったため、浸出反応現象の解析の進捗は予定通りとはいかなかったが、今後の研究の礎となる非常に重要なノウハウを得ることができた。浸出反応界面の高空間分解能観察に向けた黄銅鉱劈開面のSTM観察については、劈開条件と表面構造の関係について、期待以上の詳細な情報が得られた。以上より、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
研究内容は、「①黄銅鉱バルク結晶の作製と材料学的評価」「②浸出反応の電気化学的機構の調査」「③浸出反応界面における組織形成の微視的観察」で構成される。なお、②③で使用する浸出液については、典型的な組成・温度の硫酸鉄(III)-硫酸溶液に固定する。2022年度は最終年度にあたり、これまでに得られた知見を踏まえ以下の研究を行う。 パルス通電加圧焼結法を利用して作製される結晶粒径やCu:Fe:S比の異なるバルク多結晶および、異種金属硫化物(硫化銀など)を微量添加したバルク多結晶を対象として②③の調査を行い、浸出反応現象と強い相関を有する材料因子の明確化・体系化を図る。 なお、黄銅鉱の単結晶体の育成については、組成不均一性とクラック発生という課題が十分に解決できていない。高硫黄分圧下でのアニール処理の追加など、プロセス条件のさらなる工夫により本課題の解決を図る。 バルク結晶の劈開面のSTM観察によって、黄銅鉱の表面状態を原子オーダーで理解・把握できる可能性が示された。本年度は、劈開面をEBSDやラウエ法、単結晶XRDによって分析し、超高真空型STM観察で得られた情報と組みわせて、黄銅鉱表面の再構成構造を明確化することを目指す。また、非超高真空型STM装置を用いて浸出反応の最初期過程の明確化にも取り組む。
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