研究課題/領域番号 |
20H02495
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野瀬 嘉太郎 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00375106)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 硫化錫 / 固溶体 / ドーピング / ホモpn接合 / バルク結晶成長 |
研究実績の概要 |
本研究では,太陽電池などへの応用が期待されるSnSについて,1)固溶体形成によるバンドギャップ制御,および2)カチオンドープによるn型伝導化を目的としている。 1)についてはまず,アニオンの固溶体であるSn(S,Se)について,前駆体から蒸留単離させることで単結晶を得た。単結晶の組成と前駆体の固溶体組成との差は最大で2%程度であり,本研究の手法では得られる固溶体単結晶の組成を容易に制御できることがわかった。また,組成によってバンドギャップはほぼ直線的に変化することを示し,角度分解光電子分光によってバンド構造を明らかにした。一方,カチオンの固溶体である(Ge,Sn)Sについてはまず,Biをフラックスとして用いることで,Ge-(Ge,Sn)S-Bi三相平衡試料を得た。これを前駆体として気相成長による結晶育成を行ったところ,組成が均一な固溶体結晶の作製に成功した。格子定数,バンドギャップについては組成に対してほぼ直線的に変化することを示した。 2)についてはSnとの置換を考えた場合,その電子構造の類似性からSbをドーパントとして選択し,ドーピングを試みた。前駆体に予めSbを含有させておくことで,結晶成長時にSn-Sb液相とSnSの二相平衡を実現し,効率よくSbをドープ可能であることを明らかにした。特に,のところでp型からn型へ伝導型の変換が見られ,本研究で初めてカチオンドープによるn型伝導化を確認した。これは,Snを含む液相とSnSを平衡させることで電荷補償の要因となるアクセプタであるSn空孔の形成を抑制しつつ,従来よりもSbの化学ポテンシャルが高い環境を実現できた結果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初掲げた2つのテーマについて,PoCについてはほぼ達成したと考えている。特に,固溶体については,2020年11月に設立されたSnS, GeSを含む14族モノカルコゲナイドの製造販売を事業内容とするベンチャー企業を通して,リチウムイオン電池の負極としての応用も視野に入れた研究を展開中である。
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今後の研究の推進方策 |
得られた結晶の粒界などにBi, Geがわずかに観察されたため,今後はこれらの抑制が必要である。また,デバイス応用に向けた薄膜への展開を図る。これまでの研究により,バルク結晶に対してはn型伝導が得られているが,薄膜では明確には確認されていない。特に,バルク結晶育成と一般的な成膜手法では,プロセスにおける雰囲気が大きく異なる。例えば,前者に関してはアンプル中に封入していることから閉鎖系であるのに対し,後者は真空中,もしくはガスフロー中など開放系のプロセスである。これらの違いがプロセス,および得られる結晶に対する影響を明確にし,薄膜におけるn型伝導を実現する。
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