本研究では,太陽電池などへの応用が期待されるSnSについて,1)固溶体形成によるバンドギャップ制御,および2)カチオンドープによるn型伝導化を目的としている。昨年度までにPoCはほぼ終わっており,今年度は2)についてより詳細に検討することに加え,本研究のコンセプトを他の材料へ展開することを試みた。 まず,SbドープしたSnSについては,液相のSb組成によって,SnS結晶中のSb濃度を精密に制御できること,pn反転するSb濃度において,格子定数,特にpuckered方向であるa軸の変化の傾きが大きく変わることを明らかにした。今後,より精密な物性制御に向けて,Sbの置換サイトの解明などに対する有用な情報が得られた。 次に,SnSと同様の結晶構造をもつSnSeについてカチオンドープによるn型伝導化を試みた。ドーパントとして,Biを選択し,Sn-Bi液相とSnSeとの二相平衡状態から,SnSeを単離できること,さらに,Bi濃度によってpn反転することを明らかにした。これにより,本研究で提案したように,目的物質と平衡する低融点金属液相における構成元素,ドーパントの化学ポテンシャルを制御することで目的物質の物性を制御する手法が,一般的なプロセスとなる可能性を示した。 一方で,デバイス構築に重要となる製膜については,一般的な真空蒸着法を用いて種々の条件を検討したものの,n型伝導の薄膜は得られなかった。そこでSnS単結晶を基板として用いることを着想した。真空蒸着法を用いて,高抵抗のSnS単結晶上にSnSだけでなく,SnSeをエピタキシャル成長できることを明らかにした。特にSnSeについては,Biをドーパントとして用いることでn型伝導を示す膜を作製できることがわかり,今後のデバイス作製に向けて有用な知見が得られた。
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