本研究はナノマイクロメートルスケールの二次元膜厚分布の動的測定技術である位相シフトエリプソメータを軸に,ナノ材料の動的濡れについてミクロな視点から明らかにすることを目的としている。本年度は,当該研究期間内に改良した位相シフトエリプソメータを用いて基板上の各種ナノフルイド液滴の接触線近傍ナノ液膜および溶媒蒸発後の堆積ナノ粒子層の観測,および反射干渉顕微法の原理を併用した液滴の接触半径,動的接触角の観測を進めた。分散媒にはn-ヘキサンからn-ウンデカンまでの各種n-アルカン,シクロヘキサン,トルエンを,ナノ粒子には超臨界水熱合成法で合成したデカン酸修飾セリアナノ粒子(粒径はおよそ6 nm)を用い,ナノ粒子濃度は0.1 wt%から5 wt%程度とした。滴下方法にはマイクロシリンジとインクジェット装置を併用し,ピコからマイクロリットルに渡る幅広い滴下量で実験を実施した。本年度に得られた成果は以下である。 (1) 分散媒蒸発無しのナノフルイド:n-ヘプタンおよびn-オクタンを分散媒としたナノフルイドでは,純溶媒と比較し液滴が大きく拡張する超拡張現象が観察された。本ナノ粒子が界面活性ではないという報告から,水に界面活性剤を添加した液滴で観察される超拡張現象とは異なるメカニズムであることが示唆された。また,接触線近傍液膜内のナノ粒子の構造化による構造的分離圧も駆動力の可能性として報告があるが,予測されるナノマイクロ液膜の形状と本実験結果は一致しなかった。さらに,ナノ液膜(先行薄膜)の理論と比較したが,ナノフルイドは本理論に従わなかった。 (2) 分散媒蒸発有りのナノフルイド:使用した全ての分散媒において,ナノ液膜の発達を観察した。液滴の基板付着後から溶媒蒸発までの最大接触半径について,純溶媒との比を取り,ナノ液膜との拡張範囲との相関を確認したところ,両者に相関がないことを明らかとした。
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