研究課題/領域番号 |
20H02502
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
佐伯 大輔 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (70633832)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膜分離 / イオン分離 / 生体模倣 / 脂質二分子膜 / イオンチャネル |
研究実績の概要 |
液中から目的のイオンのみを分離する技術は、水処理を始めとして電池や医療など、様々な分野において求められているが、高効率、選択的かつ連続的に分離する技術は未だ確立されていない。一方、生体膜においては膜タンパク質などの機能性分子により効率的かつ選択的な物質輸送が行われている。本研究では、生体膜のイオン透過現象に着目し、生体分子の一種であるイオンチャネルを分離素子とした、特定のイオンのみを分離可能な超選択的イオン分離膜の創製を行う。2020年度は下記の項目について検討した。 I)イオンチャネルの導入方法および透過性評価方法の確立: 1価カチオン透過性のamphotericin Bをイオンチャネルのモデルとして用いて、脂質二分子膜中における立体構造をCDスペクトルにより評価し、イオンの透過性をストップトフロー分光測定装置により評価した。その結果、特定の脂質組成において1価カチオンに対する高い透過性を示すことが分かった。 II) 生体模倣型イオン分離膜の製膜方法の確立: リポソーム融合法を用いた生体模倣型イオン分離膜の作製について検討した。透過性を有する支持体表面へカチオン透過性イオンチャネルを導入したリポソームを接触させ、固定化平面脂質膜 (SLB) を形成させることで、カチオン交換膜の作製を検討した。得られたSLBについて、支持体表面における脂質膜の構造や流動性を共焦点レーザー顕微鏡により評価し、脂質膜の欠陥をイオン透過性の測定により評価したところ、一部がSLB化せずにリポソームとして吸着し、欠陥となっていることが分かった。欠陥の抑制にはPEGなどの融合誘発剤が有効であることが分かった。 III) イオン交換膜としての性能評価方法の確立: イオンチャネル導入SLBのイオン交換膜としての透過性、安定性を検証するための電気透析装置を設計、作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
それぞれの項目について、下記の通り基礎的な評価方法やSLB作製方法を確立できた。 I) イオンチャネルの機能発現には脂質組成などの膜環境が重要であることが分かった。また、今後様々なイオンチャネルを評価するための基礎となる方法を確立できた。 II) SLBの構造評価方法を確立できた。当初予期しなかったSLBの欠陥の問題が発生したが、確立した構造評価方法により、リポソームの融合に用いられるPEGなどの融合誘発剤が有効であるという新しい知見が得られた。 III) 小面積の膜サンプルも評価可能な環境を整備できた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は下記の通り検討を進める。 I) イオンチャネルのイオン選択性の評価を行い、イオン分離に適したイオンチャネル、および脂質組成について検討する。 II) イオンチャネルの導入が脂質膜構造や欠陥などのSLB形成に及ぼす影響について検討するとともに、引き続き、無欠陥なSLB形成を目指し、SLB形成における欠陥抑制方法について検討する。また、 III) 作製したSLBのイオン交換膜としての性能を電気透析装置を用いて評価する。
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