研究実績の概要 |
本年度は、溶媒乾燥の影響が無視できる密閉系内における光製膜実験を行い、液体薄膜の反応硬化過程における拡散現象について検討した。反応性モノマーとしてアクリル酸を末端基に持つ重量平均分子量1000-1500のアクリルモノマー(Aronix M9050, 東亜合成)を、光重合開始剤としてphenylbis(2,4,6-trimethyl bensoyl-)phosphine oxide (Irg819, BASF)を、重合物に対して非相溶で且つ光反応には直接関与しない揮発性溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)をそれぞれ用いて、光反応性溶液を調製した。この溶液をZnSeプリズム上へ初期厚み200~1000ミクロンとなるよう塗布し、塗布膜-プリズム界面の深さ数ミクロンの範囲における液体組成を、Attenuated Total Reflection (ATR)-FTIR法により測定した。まず濃度が既知の溶液に対して吸光度と濃度の間の検量線を作成したのち、光照射前後の赤外吸収スペクトルを測定することで、塗布膜底面における溶媒濃度の時間変化を追跡した。また得られたスペクトルから同一反応時刻におけるモノマー反応率を算出した。その結果、スピノーダル分解による共連結型の相分離構造が発現する組成では、光照射により溶媒濃度は増加し極大値を示したのち、緩やかに減少して光照射前の水準まで低下するのに対して、核生成による海島型の相分離構造が発現する組成では、溶媒濃度は光照射と共に急激に増加しその後は減衰することなく一定値を保つことが明らかとなった。この光照射前後の溶媒濃度差を反応率に対して整理したところ、両者の関係は、スピノーダル分解と核生成の2つの相構造が発現する場合について、それぞれ一本の曲線で表されることがわかった。これは、塗布膜内の溶媒拡散流束が相構造によって決定されることを示している。
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