本年度はまず、初年度に実施した溶媒乾燥の影響が無視できる密閉系内における光製膜実験を、ガラス転移温度の異なる重合物が生じる複数の材料系へと拡張し、液体薄膜の反応硬化過程における拡散現象について検討した。局所溶媒濃度の変化量をAttenuated Total Reflection (ATR)-FTIR法により測定したところ、光照射による溶媒拡散は、測定温度がガラス転移温度より高い場合も生じることがわかった。この結果は、液体がゴム状態であっても非Fick型拡散が生じ得ることを示しており、光駆動溶媒拡散はガラス状態でのみ生じるとした研究開始時の予想とは異なる。また光反応性モノマーにトリプロピレングリコールジアクリレートを用いた場合、紫外光強度が低い条件において、溶媒が光照射方向とは逆方向に移動すること、照射強度が臨界値を超えると溶媒の移動方向が反転して光照射方向に一致することが、新たに明らかとなった。この詳しいメカニズムは未だ明らかではないが、厚み方向に不均一な反応硬化が生じることで、一部の溶媒が硬化層を膨潤させるためと推察される。なお光強度が高い場合、検討した全ての系において溶媒濃度変化量の絶対値は、昨年度に導出した理論値よりも小さいことが明らかとなった。これは本理論が濃度変化量の上限を示すことを示唆しており、この理論を用いることで、本技術を産業用途に展開する場合における最大溶媒拡散量の推算が可能であることを示している。 さらに昨年度に見出した柱状多孔質構造の発現機構を明らかにするために、溶媒乾燥が反応と同時に生じる場合について、既保有の高速度カメラを用いたリアルタイム観察を実施した。その結果、液表面に露出した柱状構造は面内で一方向に且つ1s以内の高速で進展することを新たに見出した。
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