研究課題/領域番号 |
20H02516
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
牧 泰輔 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10293987)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | nano particle / inkjet mixing / lipid nanoparticle |
研究実績の概要 |
二つの向かい合うノズルから吐出された液滴が空中で衝突,合一・混合するインクジェット混合システム(IMS)を作製した。IMSの特徴として,①2液高速混合(1 ms以下),②必要最小限量の原料消費,③固体生成反応での流路閉塞なしが挙げられるが,これらの利点を活かし,DDSキャリアに用いられる脂質ナノ粒子(LNP)と電子物性,磁気特性,光学特性,触媒特性に優れる金ナノ粒子 (AuNP)の合成を検討した。 LNPの合成については液滴の衝突条件と粒子径の関係を詳細に検討し,液滴衝突時のWe数と衝突径数が粒子径に大きな影響を与えることを明らかにした。We数が大きいほど,合一液滴の変形が大きくなり,LNP平均径が減少した。これは大きな変形により液滴内部の混合が促進されたためと考えられる。また,衝突径数の変化によって,合一液滴の変形挙動および合成されるLNP平均径が変化することを確認し,合一液滴は,上下方向の衝突径数を変更したときには垂直面の回転を,奥行方向の衝突径数を変更したときには水平面の回転をした.回転が垂直面回転から水平面回転になるにつれて,合成されるLNPの平均径が減少することを明らかにし,低体積比で26.1 nmと微小なLNPを合成することに成功した. AuNPは還元剤溶液中に金前駆体を含む液滴をインクジェットシステムにより射出することで合成し,Au粒子径に対する液滴径および液滴射出頻度の影響を検討した。還元剤溶液に金前駆体を添加するとともに粒子径は増加するが,粒子の個数は一定となることを明らかにした。比較のためシリンジによる添加をおこなった場合は粒子数が増加したことから,微小な液滴を添加することで局所的な濃度上昇による核生成を抑制した結果であると考えられる。これより,IMSによるAuNPの合成では,核生成と粒子成長過程を巧妙に分離し,粒子径を広範に制御できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目標であった脂質ナノ粒子(LNP)の合成に成功した。その上、昨年度までの成果から得られた迅速混合に必要な液滴衝突条件を元に衝突後の液滴の回転を制御することで,従来よりも低体積比条件において30nm以下のLNPの合成に成功した。これはLNPに含包するされず廃棄される薬液の抑制につながるものである。 金ナノ粒子(AuNP)の合成については簡易に粒子径を制御する方法を提案した。従来、AuNPは反応条件(濃度・温度・反応時間)で粒子径を制御することは困難であり、反応法により制御することが主流であった。インクジェット液滴を用いて反応溶液の濃度を緻密に変動させることで、核生成挙動と成長挙動を巧妙に操作し、反応条件を変えることなく粒子径を制御することに成功した。 以上より、コロナ下において研究資材の入荷遅延による遅れはあったが、研究は当初の計画以上に通り進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで金属ナノ粒子を中心にインクジェット液滴を用いた合成法を検討してきたが、今後はこれを高分子粒子に拡張する。インクジェット液滴は供給量や濃度だけでなく、供給のタイミング、間隔なども制御可能であり、種々のサイズや物性を制御した高分子溶液を貧溶媒に逐次投入する、いわゆる貧溶媒晶析法により高分子微粒子を作製する。微粒子のサイズ制御は原料の濃度によって行うことが一般的であるが、原料濃度は核生成段階と成長段階の双方に影響を与えるため、粒子径を広範囲に制御することは困難である。しかし、液滴による原料の供給は、濃度だけでなく供給の間隔を変えることが容易であり、さらに反応の状態に応じて原料を供給して濃度変化プロファイルを制御することで核生成と粒子成長を分割し、核生成段階の制御によって生成粒子数を決定し、その後に所定の粒子径まで成長させることで任意の粒子径のナノ粒子が作成できると考えられる。
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