二つの向かい合うノズルから吐出された液滴が空中で衝突,合一・混合するインクジェット混合システム(IMS)の利点を活かし,高分子ナノ粒子の合成に取り組んだ。高分子粒子合成は高分子溶液と貧溶媒の混合により生成するが,高粘度であるため水溶液と比較し高速混合が困難であること,核化と成長による固体生成過程(ガラス化あるいは結晶化)の前に相分離過程があることが特徴である。 溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用いたポリスチレン(PS)溶液を貧溶媒である水中に射出してしてPSナノ粒子を作製した。PSナノ粒子は球形であり,CV値が0.2以下の非常に均一な粒子の作製に成功した。射出頻度を5~50 Hzの範囲で変化させることで粒子径を100~200nmの範囲で制御できた。また,溶液濃度や液滴径の影響についても検討し,昨年度に作製したAuナノ粒子と同様に固体生成時の溶液濃度変化過程を制御することで広範囲に粒子径を制御できることを明らかにした。さらに,PSとポリイソプレン(PI)の2成分溶液からナノ粒子の作製を試みたところPS部とPI部を有するヤヌス粒子の作製に成功した。 2成分高分子溶液からのナノ粒子作製についてIMSを用いて検討した。IMSを用いた場合はヤヌス粒子とはならず2種類の高分子が混合した固溶体状の粒子が生成した。これは高分子溶液が相分離してPS相とPI相に分離する前に貧溶媒と混合して固化するためと考えられる。マイクロミキサーを用いた場合はヤヌス粒子しか生成しないため,この結果からもIMSがマイクロミキサー以上の混合速度を有することを確認できた。しかし,IMSを用いた場合でも貧溶媒にTHFを加える,高分子濃度を増加するなど固化速度を緩和することでヤヌス粒子が生成した。以上より,IMSは固溶体状粒子とヤヌス粒子の2つのモルフォロジーを制御した高分子ナノ粒子を生成できることを示した。
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