研究課題/領域番号 |
20H02521
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊地 隆司 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (40325486)
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研究分担者 |
久保田 純 福岡大学, 工学部, 教授 (50272711)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アンモニア / 電解合成 / プロトン伝導体 / 赤外分光 / 過渡応答法 / 鉄触媒 / 固体リン酸塩電解質 / バリウムジルコネート |
研究実績の概要 |
本年度は、Fe/バリウムジルコネート(BZY)系のアンモニア合成電極触媒における、アンモニア合成過程の検討を行った。電流遮断法による電極表面吸着種の解析、赤外分光法による電極表面吸着種の解析、および電圧印加によるアンモニア合成の促進効果に対する温度の影響を検討した。まず、電解質にプロトン伝導体のリン酸塩固体電解質を用いた220℃でのアンモニア合成において、電流遮断法を適用した。この方法では、電圧を印加しアンモニア合成が進行している状況から、電圧を開回路電圧に変更することで、電極表面上の吸着種が分解する際の逆電流を測定した。窒素をアンモニア合成電極に供給した場合には、アルゴンを供給した場合(水素発生反応)と応答電流の挙動が異なり、反応中間体であるN2Hxの分解による電流が流れる可能性が示唆された。これを確認するために、電圧印加状態でアンモニア合成電極の表面吸着種をFT-IRでその場観察した。電圧を印加することでN2Hxの生成に対応する吸収ピークが現れ、電気化学的な作用によりN2の還元が進み、窒素分子にプロトンもしくは水素原子が付加してから窒素原子間の結合が解離しアンモニアが生成する、associative機構で反応が進行することを強く示唆する結果が得られた。一方で、電解質にプロトン伝導体のBZY、電極触媒にFe/BZYを用いて500℃で電圧印加しアンモニアを合成したところ、アンモニア合成速度が徐々に増加するという結果が得られた。電圧印加を止めたところ、アンモニア合成速度は緩やかに減少した。この緩やかな変化は、200℃での印加の場合と大きく異なり、また、電極材料の還元のような時間スケールの現象よりも変化が緩やかであった。500℃では電圧印加によるアンモニア合成促進の機構が、200℃の場合と大きく異なることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画では2年目までに赤外分光法を用いた電極表面上の反応中間体の検出を予定した。当初の研究計画での目標を順調に達成するとともに、得られた成果を英国化学会の著名な学術誌で発表するまで研究を進展させた。また、当初の研究計画では予定していなかった、220℃での過渡応答試験や500℃でのアンモニア電解合成試験など、研究を進める中で得られた知見に基づき、新たに取り組んだ実験課題が複数ある。これらの新しい実験から得られた結果は、当初から予定していた実験とその結果を強く支持する結果となっており、本研究の本質的な問いに対する結論を導くのに、大きく役立つものである。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにアンモニア合成における電気化学的な促進効果は、電解合成温度により異なり、200℃付近での電解合成ではプロトンが吸着窒素分子に付加してから窒素還元が進むことを明らかにしている。また過渡応答試験結果により、高電流密度下でアンモニア合成速度および電流効率が低下するのは、電極表面の吸着窒素原子数および水素原子/プロトン数の低下によるもので、一般的な熱触媒反応における水素被毒とも異なる機構であること示唆した。昨年度までに開発した光学セルによる電極表面吸着種のin-situ赤外分光法により、低電流密度での反応機構解明の目途はついたが、大電流密度下での表面吸着種の変化とアンモニア生成速度との関係を明らかにするための実験を実施し、大電流密度でのアンモニア大量合成への指針をえることを目標とする。
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