研究課題/領域番号 |
20H02524
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
大山 順也 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (50611597)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 固体触媒 / ナノ粒子 / 3次元 / 原子スケール / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
高効率化学変換やエネルギー利活用のための鍵材料である固体触媒の技術革新のためには、その複雑な構造を理解することが必要であると考える。そこで本研究課題では固体触媒である担持金属ナノ粒子の原子スケール3D構造解析に取り組んでいる。2020年度にはアルミナに担持した2 nmのPtナノ粒子をプロトタイプとして原子スケール電子顕微鏡像の3D像再構築プロセスを一通り行うことで課題抽出を行った。その結果、実験的には電子顕微鏡観察条件下でのサンプルの安定性が課題であり、画像処理においては金属ナノ粒子のバックグラウンドの担体イメージの除去精度が課題であることが明らかになった。そこで2021年度はサンプルと観察条件の検討を行った。金属ナノ粒子のサイズを変えて電子顕微鏡観察を行った結果、サンプルとしてはある程度大きなサイズである5~10 nmの金属ナノ粒子が比較的安定であり、また、様々な視野を丁寧に観察することで電子線ダメージの少ない状態を見つけた。さらに、画像処理においても担体画像を増やすことで除去精度を上げることができた。これらにより、アルミナ担体上にある構成原子数1万程度のPdナノ粒子の原子スケール3D構造を得ることができた。現在、担体コントラストの除去精度のさらなる向上や原子位置の調整を進めているところであるが、実際の担持Pdナノ粒子の原子スケール3D構造がおおむね構築できた。Pdナノ粒子中の1原子1原子が可視化されたことで、アルミナ担体上のPdナノ粒子はバルクの理想的なFCC構造とは異なり歪んでいる様子が詳らかになっている。また、このような担持金属ナノ粒子系に加え、担体上で単核や複核構造を有する金属触媒についても電子顕微鏡観察、in situ X線吸収分光法、in situ紫外可視吸収分光法を用いて原子スケールでの構造解析を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、電子顕微鏡を用いた担持金属ナノ粒子触媒の3D構造解析において安定性の高いサンプルおよび観察箇所の探索を行った。いくつかの担持金属ナノ粒子とTEMグリッド上でのいろいろな場所での観察を試した結果、θアルミナに担持された10 nm程度のPdナノ粒子で比較的安定性が高く3D再構築のための画像データを取得できた。サンプルの電子顕微鏡観察では原子分解能の走査透過電子顕微鏡モードで行い、約±70度を少しずつ傾斜させて像を得た。得られた数十枚のそれぞれの像について、バックグラウンドであるθアルミナ担体のコントラストを差し引くことでPdナノ粒子を抽出し3D構造を再構築した。θアルミナ担体のコントラストの除去は前年度よりも精度よくできたがまだ改善させる必要があり、また、原子位置の決定においても精度を上げる必要はあるため課題は残っているが、10 nm程度のPdナノ粒子を構成する約1万個のPd原子を可視化することができた。その結果、FCC構造を有するPd金属の理想的な原子配列に比べて歪んでいることが明らかになり、また、原子間距離などの構造パラメータを抽出することができるようになった。このように原子スケールでの触媒構造-活性相関を調べるための基礎がおおむね出来た。また、SiO2上に高分散したCoやゼオライト中のCuのような金属活性点が単核あるいは複核構造を有する系について、電子顕微鏡に加えてin situ XAFSやUV-vis分光法によって活性点構造を解析してきた。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
担体金属ナノ粒子触媒の原子スケール3D構造解析とスペクトル測定による構造解析を進め触媒の活性-構造相関を明らかにしていく。 ・3次元構造原子スケール可視化 2021年度までの検討で、アルミナ上の10 nm程度のPdナノ粒子の3D像再構成を行い、約1万個の原子からなるPdナノ粒子の構造を得た。そこで2022年度は課題として残る担体バックグランドの除去精度向上と原子位置調整を進めることでPdナノ粒子の原子スケール3D構造解析を達成する。本研究で取り組んできた担体除去の手法は、Pd/Al2O3やPt/Al2O3だけでなく、さまざまな担持金属ナノ粒子にも適用可能であると考えられるため他の担持金属ナノ粒子へ展開する。一方、担体上の活性金属種が単核や複核構造を有する場合にはXAFSやUV-visが構造解析に有効であったため、2022年度は高分解能XAFS分光法とスペクトルシミュレーションによって活性点構造を詳細に解析する。 ・活性-構造相関 Pdナノ粒子の原子スケール3D構造から構造パラメータを収集する。具体的には、原子間距離、配位数を収集する。特に表面の構造パラメータとバルクの構造パラメータとを比較し違いを明らかにする。これにより触媒の構造と特性・活性の関係を検討する。特性評価については、一酸化炭素吸着FTIRスペクトル測定を行い、表面構造と一酸化炭素吸着特性の関係を検討する。触媒活性についてはPd/Al2O3が炭化水素燃焼に対して粒子構造特異的な活性を示すことが分かっているため、炭化水素燃焼に有効な構造パラメータを検討する。また単核・複核構造を有する担持金属触媒については炭化水素の酸化反応の性能と構造の関係を調査し高性能な活性点構造について検討する。
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