固体触媒の技術革新のためには、その複雑な3次元構造を原子スケールで理解することが必要であると考える。そこで本研究課題では、担体上の金属ナノ粒子触媒の3次元構造の解析について取り組んできた。用いた手法は電子線トモグラフィーである。原子分解走査透過電子顕微鏡を用いて約±70度の範囲で1~2度ずつ傾斜させながら担持金属ナノ粒子のHAADF-STEM像を取得し、それらを基に3次元再構成することで金属ナノ粒子の原子分解3次元構造の解析を進めた。この中で大きな課題となったのは、金属ナノ粒子の背景にある担体由来の像の除去であった。担体は複雑な形状を有しており単純なモデルで表すことができなかったため、本研究ではディープラーニングによる背景予測技術を取り入れた。具体的に、ディープラーニングによってアルミナ担体を良く再現するモデルを構築し、アルミナ担体上の約10 nmのPdナノ粒子の像を抽出した。これを一連の傾斜像に適用し、それらを基に3次元再構築することで、Pdナノ粒子の3次元構造を得ることに成功した。原子分解3次元構造を基にPd原子周りの局所構造パラメータを取得し、Pd原子配列の乱れと歪みを評価したところ、担体との界面において乱れおよび歪が大きいことが示された。この電子顕微鏡による担持金属ナノ粒子の3次元構造解析に加え、in situ高分解能X線吸収分光法およびin situ 紫外可視吸収分光法を用いた担持単核・複核金属触媒の構造解析についても進めた。2022年度は特に担持Cu触媒の高分解能X線吸収スペクトルの違いについて各種モデル構造のシミュレーションによって検討した。その結果、メタンの部分酸化に有効な活性種構造を絞り込むことができた。
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