研究課題/領域番号 |
20H02529
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
関 実 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (80206622)
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研究分担者 |
山田 真澄 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30546784)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオマテリアル / 細胞培養 / ハイドロゲル / コラーゲン |
研究実績の概要 |
本研究の2年目に当たる2021年度は,前年度に引き続き,細孔が血管網として機能する「3次元的かつ多孔性の」細胞培養系の開発を行った。まず,フィブリンからなる多孔性のハイドロゲルを形成する手法に関しては,マイクロ流体デバイスの内部において犠牲材料を用いて管腔構造を形成する際の条件検討を詳細に行い,ハイドロゲル材料の種類,犠牲ファイバーの形状や導入量,流路構造のデザイン,などの条件を最適化することで,多孔性のゲルを効率的に形成できる条件を見出した。その上で,フィブリンハイドロゲルのマトリックスに線維芽細胞を,空隙部分に血管内皮細胞をそれぞれ導入することで,毛細血管網を迅速かつ精密に形成する手法をある程度確立することができた。さらに,これまでに形成した線維化コラーゲン微粒子を用いる3次元細胞培養系を,特に間葉系幹細胞の分化誘導に適用した。間葉系幹細胞の集塊にコラーゲン微粒子を導入し軟骨細胞への分化を試みたところ,コラーゲン微粒子によって分化が均一化・効率化する様子が確認できた。加えて,多孔性の皮膚モデルを作製するために,断片化コラーゲンファイバーを用いた新規手法を開発した。特に,ヒト線維芽細胞を用いた真皮模倣組織の形成が可能であることや,細胞外マトリックスの生産および代謝に関与する遺伝子発現の向上を示すことができた。これらの結果は,精密に加工したバイオマテリアルを用いる3次元細胞培養系の有用性を示す結果である。さらに,コラーゲンシートあるいはチューブからなる構造を用いた肝細胞培養系の開発,ゼラチン微粒子を用いた懸濁培養系のCHO細胞への適用,多孔性チャンバーを用いた肝細胞の潅流培養系などの開発を引き続き行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から開発を続けている各種微細加工バイオマテリアルについて,その作製法を確立しつつあり,ほぼ想定通りの結果が得られている。当初予定していたiPS細胞については,その分化制御を行っていないが,代わりに間葉系幹細胞の分化における多孔性材料の有用性を示すことができた。さらに,皮膚モデルや毛細血管網の形成,肝臓組織の形成などにおいても,微細加工材料の効果を確認できた。これらをふまえると,概ね順調に研究が進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の3年目に当たる2022年度は,「複数種の細胞をマトリックス内外に導入できる,多孔性のハイドロゲル材料」を作製するための基盤技術の開発と実証を継続する。そのために具体的には以下の検討を行う予定である。(1)前年度に引き続き,溶解性の微小ファイバーを犠牲材料として用いることで,血管網を有する3次元的なハイドロゲルを迅速かつ精密に形成する手法を開発し,その深化と応用を目指す。本年度は,微細孔の連通性の向上,培養液のハイドロゲルに対する均一な分配,および血管のバリア機能の検証,などを行い,さらに血管新生能の評価を行うことで,薬剤アッセイへの応用を目指す。(2)水性2相分散系を利用したスポンジ状のハイドロゲル形成において,その形成挙動の制御性の向上,ゼラチン以外のハイドロゲル材料への適用,および共培養による細胞機能発現の向上を目指す。特に,肝細胞(主として培養ヒト肝細胞,あるいは単離肝細胞)の培養を行い,遺伝子発現の定量評価や免疫染色によって,新規材料の有用性を示したい。(3)線維化コラーゲン粒子やコラーゲンファイバーを用いた3次元細胞培養系について,その多様化と精密化を目指す。本年度は,遺伝子発現解析等によって,幹細胞の分化制御におけるコラーゲン粒子の有用性をより詳細に検証するほか,その導入量の最適化によって,さらなる分化制御性の向上を目指す。また,断片化コラーゲンファイバーを用いた真皮モデルの作製においては,形成された組織を流路システムと統合することによって,薬剤の透過性を効率的に評価するシステムを開発するほか,表皮細胞との複合化を目指す。特に,「厚みのある」多層表皮モデルの形成を目的とする。(4)これらに加えて,肝細胞や間葉系幹細胞を効率的に培養するための「微細加工バイオマテリアル」として,細胞内包チューブ,ファイバー,潅流デバイス,などの開発を引き続き行いたい。
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