研究課題/領域番号 |
20H02531
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津本 浩平 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90271866)
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研究分担者 |
長門石 曉 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (30550248)
黒田 大祐 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (60756732)
中木戸 誠 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (80784511)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗体 / ペプチド / フラクチュエーション / CDR / 金属イオン / 分子動力学計算 / 物理化学 |
研究実績の概要 |
蛋白質エンジニアリングにおける局所部位のコンフォメーション変化に着目すると、蛋白質エンジニアリングによって生じるローカルなフラクチュエーション変化とコンフォメーショナルセレクションとの密接な関連が浮かび上がる。そこで本研究では、変異導入、柔軟性変化、小型化、コンジュゲーションにおける蛋白質エンジニアリングに伴うローカルなフラクチュエーション変化が、コンフォメーショナルアンサンブルの多様性を増大させ、新しい相互作用界面の出現、分子認識の多様性を生み出すのではないかと考えた。 各プロジェクトの本年度の成果としては、 (Project A) 金属イオン存在下と非存在下におけるSonic hedgehog(SHH)の柔軟性変化が、抗原として抗SHH抗体と結合する際に及ぼす影響について解析を行った。その結果、分子動力学計算を導入しSHHの金属有無しにおける蛋白質としてのダイナミクスの相違点を抽出することに成功した。 (Project B) 抗体の抗原結合部位である可変領域CDRをフラグメント化した分子について、複数の環状化パターンを検討した。その結果、各CDRフラグメントの相互作用様式と、環状化パターンに密接な関連性があることが示唆された。 (Project C、D) Fc受容体FcγRIIIaの抗体に対する結合におけるローカルフラクチュエーションの影響を知るために、FcγRIIIaと抗体との精密な速度論解析を実施した。その結果、受容体の固定化状態と溶液状態では、抗体のダイナミクスに対して異なる分子認識様式を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(Project A) 本年度の計画は、分子動力学計算を導入し、SHHの金属有無しにおける蛋白質としてのダイナミクスの相違点を抽出し、相互作用に関わるローカルフラクチュエーションの特定を試みることであった。実施した結果、SHHの金属有無しにおける蛋白質としてのダイナミクスの相違点を抽出することに成功した。したがって本プロジェクトは計画通り進んでいる。 (Project B) 本年度の計画は、抗体の抗原結合部位である可変領域CDRをフラグメント化した分子について、複数の環状化パターンを検討し、各CDRフラグメントと環状化パターンとの相互関係を明らかにすることであった。実験の結果、各CDRフラグメントの相互作用様式と、環状化パターンに密接な関連性があることが示唆された。したがって本プロジェクトは計画通り進んでいる。 (Project C、D) 本年度の計画は、各種 FcγRIIIaと抗体との速度論解析を実施し、その物理化学パラメータ変化と、分子動力学計算を活用したFcγRIIIaのフラクチュエーション変化との関連性を見出し、さらにC末端側が固定化されたFcγRIIIaに関する物性・構造を精密に解析することで、FcγRIIIaのローカルフラクチュエーションに関する知見を収集することであった。これらを実施した結果、受容体の固定化状態と溶液状態では、抗体のダイナミクスに対して異なる分子認識様式を示すことが明らかとなった。したがって本プロジェクトも計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
(Project A) 金属イオン存在下と非存在下におけるSonic hedgehog(SHH)の柔軟性変が、抗原として抗SHH抗体と結合する際に及ぼす影響について、分子動力学計算からSHHの金属有無しにおける蛋白質としてのダイナミクスの相違点を抽出することに成功したので、今後は、このダイナミクスの変化がどの部位で大きく変化しているのかを各アミノ酸におけるRMSF解析等によって明らかにする。さらに金属イオンの有無におけるホットスポット残基と、そのエネルギー貢献を精密に評価し、抗原の柔軟性が抗体の分子認識に及ぼす局所的な部位を特定する。これらより、抗体のCDRにおいて新たなアミノ酸側鎖を付加し、フラクチュエーションの高い抗原に対して結合親和性を向上させる抗体設計の指針を提案する。 (Project B) 抗体の抗原結合部位である可変領域CDRをフラグメント化した分子について、複数の環状化パターンを検討し、各CDRフラグメントの相互作用様式と、環状化パターンに密接な関連性があることが示唆された。このことから、抗体におけるCDRの相互作用に関する物理化学的特性を明らかにすることにより、抗体のぺプチド小型化に関する設計指針が得られると考えられる。そこで今後は、抗体およびペプチドの結合に関する速度論および熱力学的相互作用パラメーターの定量化を行う。 (Project C、D) Fc受容体FcγRIIIaの抗体に対する結合におけるローカルフラクチュエーションの影響について、受容体の固定化状態と溶液状態では、抗体のダイナミクスに対して異なる分子認識様式を示すことが明らかとなった。そこで今後は、ITCおよびSPRを活用して相互作用に関する物理化学パラメータを定量解析し、分子動力学計算におけるFcγRIIIaの固定化条件でのコンフォメーショナルな変動との相互関係を精査する。
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