研究課題/領域番号 |
20H02532
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
養王田 正文 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 卓越教授 (50250105)
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研究分担者 |
前橋 兼三 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40229323)
福谷 洋介 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50747136)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 嗅覚受容体 / センサー / 無細胞タンパク質発現 / GPCR |
研究実績の概要 |
嗅覚受容体(OR)の異種細胞での発現は困難であり、多くのORの機能的発現はOR特異的シャペロンであるRTP1Sに依存している。これまで研究で用いていたcOR52は我々が開発したコンセンサスORの1種であり、他のORと比較して安定で、RTP1Sに依存することなく高効率で発現する。一般的なORもコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系で機能的に発現が可能であることを確認する実験を行った。RTP1S非依存型であるOlfr78と依存型であるOlfr978をコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系で合成したところ、いずれのORも合成され、リポソーム画分に検出された。依存型であるOlfr978でもRTP1S添加の効果はなかった。発現したOlfr78はリガンドであるオイゲノール依存的にminiGolfとの結合した。Olfr978の機能性については解析中であるが、様々なORがコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系で機能的に発現できることを示唆する結果である。cOR52を固定化したグラフェンFETの応答を詳細に解析した結果、グラフェンFETに固定化するORの量とその安定性が検出感度に大きく影響することが分かった。ORの末端を修飾することで、グラフェンFETに固定化する方法を開発することになる。リガンド応答のメカニズムからC末端を修飾することが妥当であると考えられるが、ORのC末端を修飾した報告はなかった。そこで、cOR52のC末端を欠損することが可能か調べた。その結果、C末端を8残基を欠損させても細胞表面に発現し、リガンド応答能を維持することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般的な嗅覚受容体がコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系で発現することを示す結果を得た。発現したORの数が限られていることが問題だが、基本的なプロトコールが確立できたことから、センサー開発に必要な多様なORを発現することは可能となったと考えている。また、ORのグラフェンFETへの固定化が重要であることが明確になった。リガンドへの応答性を維持しながらORを固定化するためにはC末端のアミノ酸を変換し、修飾する必要がある。C末端を8残基欠損させても機能性が維持されることから、C末端の修飾による固定化が可能であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
コムギ胚芽無細胞合成時、ORはリポソーム膜へ挿入する。その際、リポソーム膜上のORがどの程度機能性を保持しているのか不明である。また、本研究で用いたリポソームはキットに含まれる大豆由来のアゾレクチンリポソームを用いており、ORが本来局在する嗅覚神経細胞の細胞膜構成とは異なるものである。そのため、より生体膜に近い脂質構成のリポソームを用いることで、ORの無細胞合成時の合成効率やリポソーム膜上での機能が向上する可能性がある。そこで、GPCRをナノディスク化する際の脂質膜形成に使用される脂質組成を基にリポソーム膜組成の最適化を行う。ORをグラフェン上に配向性を揃えた状態で効率的に吸着させることが検出感度の向上につながる。グラフェンは、芳香族分子がグラフェン上にπ-πスタッキングする特性を持つ。そこで、ピレンや芳香族アミノ酸をORの細胞内領域であるC末端部分に修飾することで、グラフェンへの吸着効率を向上できると考えられる。昨年度の研究においてcOR52はC末端の8アミノ酸を欠損させても機能が維持できることが示されていることから、C末端を変異させても機能性に影響がないと想定される。グラフェンFETへの吸着効率の高いC末端改変型cOR52の作製を行いOR-グラフェンFETの検出感度向上を目指す。
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