本年度は、人工遺伝子回路の設計・構築・動作確認に成功した糖化・溶菌株について、より広い環境で利用するための問題点を明らかにして、改良をすすめた。 昨年度までの研究で、Luxシステムが培養温度に対して非常に感受性が高く、特に大腸菌の至適温度である37度付近において、LuxIの活性が大きく低下するため、培養温度のわずかな違いによって、溶菌タイミング大きく異なることが明らかとなった。このため、LuxIの活性が高い培養温度を30度とし、加えてRBS配列を変更し翻訳効率を低くすることで、安定して溶菌させることに成功している。 我々の作成した糖化・溶菌株は、培養開始時に添加するIPTG濃度を低くしていくことで、より高い菌体密度で溶菌させることが可能となる。しかし、明確な原因は明らかとなっていないが、ある濃度以下のIPTGを添加しても、より高い菌体密度で溶菌させることが出来ない。培養温度を30度とした場合、安定した溶菌は観察されるが、37度より培養温度が低いため増殖速度が低下し、IPTGの添加量を低下させても、十分な量の糖化酵素を放出する菌体密度では溶菌させることが出来なかった。 そこで、培養温度30度で溶菌できない低いIPTG濃度で培養し、溶菌できない高い菌体密度において、外部からAHLを添加したところ、溶菌が観測された。このことから、何らかの原因によって、AHLの合成代謝反応が行われていないと考え、AHLの前駆体と代謝反応に関わる酵素などを調査し、代謝工学的に改変することを考えた。その結果、メチオニン添加、メチオニン代謝関連酵素の発現強化が、これらの問題に大きく関わっていることを明らかにした。
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