研究課題/領域番号 |
20H02554
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
夫 勇進 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (00350489)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子ドット / 自己集合 |
研究実績の概要 |
本研究は、コロイド半導体量子ドット(QD)の表面配位子の種類や濃度の精密な制御により、粒子配列様式および量子ドット間の電子状態カップリングの方向を制御することで、低次元(1次元)ミニバンドの形成を目指す。本年度は前年度に引き続き、新規環状配位子による連結方向・距離を精密に制御したQDの低次元超構造の創製を検討した。環状配位子は、その特異な構造から、多点配位効果による強固な結合、幾何学的制約による球状粒子表面への選択的修飾、および環サイズに対応した粒子のサイズ選択性といった一般的な直鎖配位子とは異なる機能を秘めている。環状配位子の選択修飾は、QDの連結方向の制御、側鎖基はQD間の連結距離の制御を可能とすると期待される。前年度合成した環状配位子の官能基変換および分取サイズ排除クロマトグラフィー装置を用いたサイズ分画を行った。環状配位子のフェノール基のチオール基への変換において3種類の反応スキームを検討したがいずれも低転化率であった。これは立体障害に因るものと考え、アルキルスペーサーを導入した後にチオール化を検討した。その結果、定量的にチオール基への変換を達成することを明らかにした。サイズ分画はチオエステル保護した状態で行い、重量平均分子量3000-16,000 g/molの範囲で分子量分布1.01未満と単分散なフラクションに分けることに成功した。今後は得られた単分散チオール官能化環状配位子とQDとの複合化を検討し、環状配位子のサイズとQDの配列状態の相関関係の調査を行う。また、Layer-by-Layer法によるQD単層および交互多積層膜を作製し、QDの面内密度や架橋配位子の分子長を変化させることで、QD間距離を精密に制御する。構造解析および分光学的手法により、QD間のミニバンド形成の程度および異方性を評価し、新規発光メカニズムの解明にも取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環状構造体は一般的な直鎖配位子によるナノ微粒子の表面修飾とは異なる機能・自己組織化挙動を探索するための材料であり、その合成は本研究の進展において重要な課題である。本年度は、適切なスペーサーを導入することで定量的に官能基変換が行えることも明らかにしている。また、分取サイズ排除クロマトグラフィー装置を用いたサイズ分画により分子量分布1.01未満と単分散な試料の調整に成功しているため、進捗状況は概ね良好である。また、新たにLayer-by-Layer法という異なるアプローチでQDの面内密度や架橋配位子の分子長を変化させることで、QD間距離の制御および低次元ミニバンドの形成にも取り組むことからより一層の発展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は合成した様々な環サイズと配位サイトを有する環状化合物ライブラリーを用いてQDへの表面修飾条件を検討する。配位子の環サイズ、配位サイトの違いによるQDの配列様式の変化から環状構造を用いたQDの修飾メカニズムの解明に取り組む。また、ディップコーティング方式によりQD積層膜作製の最適条件を検討する。下地となる吸着層の種類、厚さ、QD濃度、引き上げ速度 等を変化させることで、QD単膜の面内密度制御に関する知見を得る。その後、架橋分子溶液への浸漬とQD分散液への浸漬を繰り返すことで交互積層膜を作成する(Layer-by-Layer法)。ここで、架橋分子の鎖長を変化させることでミニバンドの形成の程度を制御する。また、最密充填条件で積層する際には、QD同士が隣接する面内方向よりも面外方向へ架橋分子が選択的に反応すると考えられる。このような積層膜の作製により、面外方向への低次元(1次元)ミニバンドの形成を目指す。作製した交互積層膜の構造は、X線回折、断面走査透過電子顕観察および元素マッピングにより決定する。紫外可視吸収およびフォトルミネッセンススペクトル、発光寿命、およびそれらの温度依存性からミニバンド形成強度や次元性の評価を行い、QDの低次元(1次元)ミニバンド形成に伴う発光メカニズムの解明に取り組む。
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