研究実績の概要 |
本研究課題は量子ネットワークの形成に向けた基盤技術として, 現行の光通信網と整合性が良く, 統計的・エネルギー揺らぎを抑制した量子ドット内蔵型光ファイバーデバイスを開発し, 伝送路の不安定性に対する耐性に優れたエンタングルメン伝送路の揺らぎの影響を受ける光子一つと真空場で形成されるエンタングルメントを介した量子テレポーテーションの実験を通して, 伝送路の揺らぎに対する忠実度の影響を精査し, 現行の光通信網を介した量子ノード間制御への展開を図るものである. 初年度及び2年目の実施計画は, 1. クロスニコル型量子ドット結合型光ファイバーデバイス(QDinF)の開発, 2. ナノピラー形状の最適化による単一偏波ファイバーへの光学結合効率の向上と境界面での偏光乱れの抑制, 3. 共鳴励起によるエネルギー揺らぎを抑制した単一光子生成手法の確立, である. 実施項目1,2に関連して半導体の表(裏)面の物理的な形状による偏光乱れの定量評価, 光子取り出し効率向上に向けたナノピラー形状の改良, エネルギー揺らぎ抑制に向けた光駆動手法の精査を実施した. 半導体と光ファイバーの屈折率差に起因する偏光乱れを抑制するため, 半導体の表(裏)面に金属アパーチャーを成膜し, 偏光乱れを定量的に評価した. 金属アパーチャーの形状及び開口径, 金属材料(Au, Ti, Ag)により偏光乱れ及び透過率が変化するが, 成膜前の半導体表(裏)面の粗さが偏光乱れを強く誘発することを確認した. 実施項目3に関連して, 自由空間上で二光子共鳴励起下での単一光子生成に着手した. クロスニコス光学配置による偏光選択に加え, 狭帯域バンドパスフィルターによる波長選択を施し, 半導体量子ドットからの発光と励起光を分離し, 単一光子状態であることを示す強度干渉計による二次の光子相関関数のアンチバンチングを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した, 前半2年間の実施項目である1. クロスニコル型量子ドット結合型光ファイバーデバイスの開発, 2. ナノピラー形状の最適化による単一偏波ファイバーへの光学結合効率の向上と境界面での偏光乱れの抑制, 3. 共鳴励起によるエネルギー揺らぎを抑制した単一光子生成手法の確立に着手し, QDinFデバイスの試作及び検証用光学系の構築を概ね予定通り実施できたため. 更に単一光子生成のビットレート向上を念頭に, 光子数の統計的揺らぎの抑制手法の精査に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載したように, 前半2年間を量子ドット結合型光ファイバーデバイスの開発に充て, 単一偏波ファイバーと量子ドットの光学的結合効率を向上させ, エネルギー揺らぎを抑える光励起方法を確立する. 後半2年を単一光子と真空場のエンタングルメント(SPVE)を介した遠隔量子系間の相関実験に充てる. SPVEを介した量子テレポーテンションの忠実度と光伝送路の揺らぎ量の間の相関を評価し, 遠隔スピン間の制御へ展開を図る. これまで自由空間光学系を用いた原理検証実験を実施する上で, 液体ヘリウムフロー型のクライオスタットを用いてきたが, 寒剤価格が高騰しており, 申請時に予定していた超伝導ナノワイヤ単一光子検出器の高感度化に代えてヘリウム循環型のクライオスタットへの置き換えを2年目に予定している.
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