研究課題/領域番号 |
20H02559
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高田 真太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (90805144)
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研究分担者 |
小寺 哲夫 東京工業大学, 工学院, 准教授 (00466856)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 表面弾性波 / 量子電子光学 / 飛行量子ビット / 量子ドット / 量子細線 / 圧電帯薄膜 |
研究実績の概要 |
「GaAs/AlGaAs半導体二次元電子系における量子電子光学実験に向けた基盤技術の開発」に関しては、まずピコ秒スケールの電圧パルスを活用し、表面弾性波によって運ばれる単一電子の飛行中の位置分布を調べた。その結果、ある閾値を超える強度の表面弾性波で電子を移送することで、特定の表面弾性波のポテンシャル底を選び、電子を運べることを示した。現在は、その知見を利用し、結合量子細線に2個の電子を同期して注入し、クーロン相互作用を利用した位相制御器の実現に向けた実験に取り組んでおり、成果が出始めている状況である。また、初年度に技術開発を行った単一のポテンシャル底を持つ表面弾性波を用い、単一電子の移送実験を行った。その結果、99%を超える高い効率で単一電子の移送を行うことに成功した。 「Si電子系における単一電子移送の実現」に関しては、初年度から継続し、より高強度な表面弾性波をSi電子系に導入するため、絶縁体膜や圧電帯膜の最適化に取り組んだ。現在は、新たに設計した膜構造の上に作製したIDTの評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度はGaAs系における量子電子光学実験に向けた基盤技術の開発に関して当初計画を超える大きな進展が見られた。まず表面弾性波によって運ばれる単一電子の位置分布についての研究により、一定の閾値以上の強度の表面弾性波を用いて単一電子の移送を行うことで、電子を表面弾性波の特定のポテンシャルの底に閉じ込めて移送できることを示した。この成果は、異なる単一電子源を同期して動作させる上で重要な結果であり、Applied Physics Lettersに論文として出版した。また、単一のポテンシャル底を持つ表面弾性波を用いた単一電子移送に関しても、99%を超える高効率な単一電子の移送の実証に成功した。この技術は、今後の表面弾性波を用いた量子電子光学実験において、標準となっていくであろう重要な技術であり、この成果をまとめて執筆した論文が現在査読中である。さらに、単一飛行電子に対する位相制御器の実現に向けて行っている、同期して注入された2個の単一電子の衝突実験に関しても重要な成果が出始めている状況である。 Si電子系への表面弾性波の導入については、上述のGaAs側の研究の大きな進展が見られた結果、多くのリソースをそちらに割く状況ではあったものの、継続して圧電帯薄膜の最適化に取り組んでおり、プロジェクト全体としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
GaAs/AlGaAs半導体二次元電子系における量子電子光学実験に向けた基盤技術の開発に関しては、結合量子細線における単一飛行電子の振る舞いを調べる研究を継続し、単一飛行電子に対する位相制御器の実現につながるクーロン相互作用に関する知見や、ビームスプリッタの実現に向けた飛行電子の量子状態に関する知見を蓄積することを目的として研究を推進していく予定である。 Si電子系における単一電子移送の実現に関しては、引き続き十分な強度の表面弾性波ポテンシャルをSi電子系に導入するためには圧電帯薄膜の層構造の最適化が必要であり、その部分に集中的に取り組んでいく予定である。そして、電子を移送するために十分な強度があると考えられる表面弾性波の発生が確認できた時点で、まずはSi電子系における多数の電子の移送を確認する実験から始め、単一電子移送の実現に向けて取り組む予定である。
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