研究課題/領域番号 |
20H02569
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森川 良忠 大阪大学, 工学研究科, 教授 (80358184)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 密度汎関数理論 / 機械学習ポテンシャル / Cu / Zn / 表面 / 合金 / 分子動力学法 / 拡散 |
研究実績の概要 |
不均一触媒の固体や微粒子表面上では、反応物や反応中間体、生成物が吸着し、さらに、有限温度下での反応であるため、構造や化学的性質が常に変化している。本研究課題では、この問題に対し、大規模第一原理電子状態計算手法とマルチ・スケール・シミュレーション手法を駆使して、真正面から答える事を目的とする。 令和三年度はCuステップ表面上でのCuおよびZnアドアトムの拡散や吸着、ステップでの拡散、合金形成過程などについて、第一原理電子状態計算手法と機械学習ポテンシャルによる分子動力学法を用いて記述することを行った。DFTを用いてCu表面上のCuやZnアドアトムがテラスやステップ 、キンクサイトに吸着する時のエネルギーと原子に働く力を求め、機械学習法を用いて古典分子動力学法の力場を構築した。Znとの合金形成過程をシミュレーションするには、百以上の配置について計算を行う必要があるため、分子動力学法を走らせながら自動的に配置のサンプリング、第一原理計算によるエネルギーの見積もり、さらに機械学習ポテンシャルを求めることを実行した。 構築した力場を用いて分子動力学法で有限温度のシミュレーションを行った。有限温度でのステップの揺らぎや合金形成過程など動的過程についても調べ、実験と詳細に比較した。上部テラスでの合金化はステップエッジに沿って大きく移動する他のステップ吸着原子によるZnステップ吸着原子の閉じ込めによって支配されていることがわかった。一方、下部テラスでの合金化は、Znステップ吸着原子とCu表面原子の下との間の直接交換によって支配される。アレニウスプロットに基づいて、合金化したZn拡散の活性化エネルギーを0.52 eVと見積もった。これは、実験で測定された実験的な活性化エネルギーの約2倍である。この食い違いは表面へのSTMチップの影響の結果として説明できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記概要欄でも記述したように、令和三年度はCuステップ表面上でのCuおよびZnアドアトムの拡散や吸着、ステップでの拡散、合金形成過程などについて、第一原理電子状態計算手法と機械学習ポテンシャルによる分子動力学法を用いて記述することを行った。オンザフライ学習スキームを利用したガウス過程(GP)回帰を使用して、MDシミュレーションで使用される力場を構築に成功した。GP回帰ではデータの不確定性を見積もることが可能であり、よって、MDで出現した新たな構造についてどの程度制度があるかあらかじめ見積もることが可能です。そのため、不確定性が大きいとなれば、DFTを実行することにより、効率的に学習データを集積することが可能となる。 GP過程によりフィットした機械学習ポテンシャルを用いた分子動力学シミュレーションにより、合金化プロセスの原子論的詳細、つまり、堆積したZn吸着原子のCu基板への組み込みが明らかになった。表面合金化は、ステップエッジ近くの上部テラスと下部テラスで開始され、表面合金化におけるステップとキンクの役割が大きいことがわかった。合金化するZnは、ステップ端から起こり、次第にテラスの中央に進行することが明らかとなった。シミュレーション中に発生するさまざまな基本イベントの統計と活性化エネルギーに基づいて、各領域(つまり、上部、下部、および中央のテラス)での合金化挙動について詳細に明らかにした。実験と比較することにより、実験的に観測されている結果とよく一致し、さらに、実験的には曖昧であった点についても明らかにすることが可能となった。 この手法は一般的であり、非常に強力な手法であり、今後、これを原子・分子吸着系へ展開していくことにより、不均一触媒反応で長年の課題であった触媒反応中での触媒表面の動的過程を明らかにすることが可能になると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今回開発したCuおよびZnの機械学習ポテンシャルをさらに水素や炭素、酸素を含む系に拡張することにより、吸着子による金属基板表面のダイナミクスについて研究を行う。例えばCu表面上での水素原子の吸着や拡散、それによる表面再構成過程など、吸着子が起因となって表面構造の大きな変化やダイナミクスについて、第一原理電子状態計算手法と機械学習ポテンシャルによる分子動力学法を用いて記述することを行う。DFTを用いてCu表面上の水素がテラスやステップ 、キンクサイトに吸着する時のエネルギーと原子に働く力を求める。次にそのエネルギーと力を再現する様に機械学習法を用いて古典分子動力学法の力場を構築する。構築した機械学習力場を用いて分子動力学法で有限温度のシミュレーションを行う。有限温度でのCu表面の再構成や拡散など動的過程についても調べ、実験と詳細に比較することにより、機械学習ポテンシャルを用いた分子動力学法による記述が妥当であることを検証する。 余裕があればCu表面上のCO分子の吸着による表面構造の変化やダイナミクスを調べる。以上の研究により、Cu表面上での原子・分子吸着による表面構造の変化やダイナミクスを第一原理電子状態計算の精度で、かつ、古典分子動力学法のように高速にシミュレーションを可能にし、雰囲気ガスによる不均一触媒の動的変化の高精度・高速シミュレーションを可能にする。これは不均一触媒反応を固体触媒の構造変化まで含めた反応機構解明のための強固な準備となる。
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