今後の研究の推進方策 |
今後はさらに挑戦的な問題に取り組む。CO2がCu表面上でフォルメートに水素化する反応がEley-Rideal過程、すなわち気相のCO2分子が表面吸着水素と直接反応しフォルメートができることを以前に理論的研究から明らかにした。さらに, その遷移状態ではCO2は大きく屈曲しており、このことから気相のCO2分子のO-C-O変角振動を励起することにより, 水素化反応が促進されると理論的に予測し, 実験的に実証された。通常、金属表面上での吸着分子の振動励起状態の寿命は数ps程度であり, よって振動励起はすぐさま脱励起するため、表面化学反応過程を促進することはほとんど無いと考えられてきた(Shirhatti, et al., Nat. Chem., 2018)。Cu表面上でのCO2の水素化反応は非常に珍しい系であり, より詳しく調べる必要があると考えられる. この触媒反応過程では非平衡な化学反応過程が重要であることを示しており、熱平衡状態の反応速度論からはこの結論は導くことができない。よって、CO2の水素化反応の動的シミュレーションを行い、多数の化学反応経路をサンプリングすることにより反応確率を見積もることを目指す。そのような計算は、分子の解離吸着反応に関してはこれまで行われて来ていた(Kroes, Phys. Chem. Chem. Phys., 2021)。しかしながら分子の結合を組み替える反応に関してはまだそのような研究が報告されていない。そこで、DFTとMLPを組み合わせたMDシミュレーションにより、この反応経路を多数サンプリングし、反応速度をDFTの計算精度レベルで直接導き出すことを目指す。そして、反応速度を支配する要因(内部自由度の振動状態、並進エネルギー、入社角など)を明らかにし、より反応性を高める指針を与えることを目指す。
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