研究課題/領域番号 |
20H02572
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
中西 勇介 東京都立大学, 理学研究科, 助教 (50804324)
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研究分担者 |
末永 和知 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 首席研究員 (00357253)
劉 崢 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (80333904)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 窒化ホウ素ナノチューブ / 原子層物質 / ナノワイヤー / 電子顕微鏡 / ナノ空間 / 気相反応 / 遷移金属カルコゲナイド |
研究実績の概要 |
カーボンナノチューブや窒化ホウ素ナノチューブの内部空間を利用し、遷移金属カルコゲナイドの1次元物質の精密合成に成功した。ナノワイヤー・ナノリボン・ナノチューブなどの多彩な1次元構造を実現し、原子分解能電子顕微鏡によってそれらの構造を原子レベルで明らかにした。これらの構造は長年、理論研究の対象となっていたが、通常の合成法(化学気相成長法やレーザー蒸発法など)では実現が極めて困難で実験研究は進んでいなかった。本研究では、ナノチューブを鋳型に用いることで精密に合成できることを世界に先駆けて実証した。例えば、カーボンナノチューブを鋳型に用いた反応では、1次元ファンデルワールス化合物であるMoTe・WTeの原子細線(ナノワイヤー)の多量合成に成功し、その光吸収、分子振動を解明した(N. Kanda et al., Nanoscale 2020)。また、理論上にした予想されていなかった「ねじれ」のリアルタイム観察にも成功し、理論とは異なる断続的な挙動を示すことも明らかにした。さらに化学気相成長法により、これらの原子細線からなる大面積薄膜を作製し、直径数十ナノメートルのWTeバンドルがカーボンナノチューブと同程度の高い電気伝導率をもつことも実証している(H. E. Lim et al., Nano Lett. 2021)。一方、窒化ホウ素ナノチューブを用いた反応では、金属的性質が予想されるジグザグ型MoS2ナノリボンを精密合成し、高エネルギー分解能の電子線吸収分光によって半導体であるバルクや単層MoS2とは異なる電子状態をもつことも実証しつつある。絶縁体である窒化ホウ素ナノチューブに着目し、内部の一次元物質の物性を原子・分子レベルで評価した例はなく、ナノチューブ研究における長年の課題を打ち破る研究成果になりえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、理論的に存在が予想されていた、遷移金属カルコゲナイドのMXナノワイヤー、MX2ナノリボン、MX2ナノチューブのみの合成を目指していた。これらの1次元物質の精密合成に成功した後、その研究過程で偶然、遷移金属クラスターからなるファンデルワールス層状物質の単層をナノチューブ内部で実現し、その結晶構造を明らかにした。この結晶は、半世紀以上構造が未解明だった化合物であり、ファンデルワールス化合物がもつ自由度(厚み・層間・ねじれ角)とクラスターの多彩な組成・構造を併せ持つ新奇な物質群になり得る可能性を見出した。以上の理由により、当初の計画以上の進展をしている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、窒化ホウ素ナノチューブを用いた物質合成、分光評価を中心に推進する。窒化ホウ素ナノチューブは6 eV近いバンドギャップをもつ絶縁体であるため、カーボンナノチューブでは困難だったゲスト物質の輸送特性・光物性の直接測定が可能になる。しかし、窒化ホウ素ナノチューブへの分子内包・観察研究は、内包物との相互作用など未知の点も多く、あまり研究が進んでいない。これまで培ってきたカーボンナノチューブへの内包技術をさらに発展させるとともに、窒化ホウ素ナノチューブを用いた技術の開発を進める。例えば、窒化ホウ素ナノチューブは溶媒中への分散性が極めて低く、ゲスト物質の分光測定に求められる試料分散が非常に困難である。多様な分散剤を用いた系統的な研究を通して、分散性の向上を目指す。原子レベル電顕観察・分光技術を組み合わせることにより、ナノチューブ内に合成した1次元物質の光物性を明らかにする。 物質合成では、クラスター化合物やトポロジカル絶縁体、超伝導体などの新たな一次元物質の合成にも取り組み、系統的な物性探索のための化合物ライブラリーを構築する。窒化ホウ素ナノチューブの高収率内包の技術、汎用的かつ高効率な観察試料作製法の確立を目指すとともに、ホストであるナノチューブの直径を変えることで一次元物質の直径や原子配列を自在に制御し、光物性の変調も試みる。これらの1次元物質を高感度・高空間分解能の電子顕微鏡技術を用いて観察・分光することにより、直径や配列の違いによるエキシトンやバンドギャップの変化、一次元特有のフォノン挙動や振動モードの変化を1本単位で精密に解明する。
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