研究実績の概要 |
本研究では、カーボンナノチューブなどのナノ空間に注目し、カルコゲナイドを中心とする一次元物質の創製および構造・物性解明の研究を進めている。今年度は、昨年度着手した窒化ホウ素(BN)ナノチューブの分散研究を加速させ、二層ナノチューブが濃縮された高分散膜の作製に成功した。さらにそれを用いたテンプレート反応によって、カーボンやMoS2などのナノチューブをBNナノチューブの表面に合成する技術を開発した(S. Furusawa et al., ACS Nano 2022)。さらにこの手法を高度化し、WSe2やMo(1-x)WxS2、MoS2(1-x)Se2xなどの多様な組成をもつナノチューブのライブラリ構築にも成功した。また、高分解能電子顕微鏡観察によって、ジグザグからアームチェアまで多様な幾何学模様(カイラリティー)をもつことも見出している(投稿準備中)。一方、当初予定していなかった進展として、W6Te6ナノワイヤーの束状結晶(ナノファイバー)への金属挿入があげられる(R. Natsui et al., ACS Nano 2023)。シリコン基板上に合成したW6Te6ナノファイバーをInの蒸気に晒すことにより、細線間にIn原子が充填される。孤立したIn-W6Te6ナノファイバーの電気抵抗の温度依存性を調べたところ、温度下降とともに電気抵抗が減少する金属的な挙動が確認された。ラマン散乱分光測定と理論的な解析を用いることにより、ナノファイバーが入射光の偏光方向に依存した散乱特性や格子振動の特徴を示すことも見いだした。それ以外にも、近赤外発光を示すカーボンナノチューブにGdを挿入し、蛍光とMRIの2つの造影効果をもつ多機能造影剤の開発にも成功している(Y. Nakanishi et al., ECS J. Solid State Sci. Technol. 2022)。
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