研究課題/領域番号 |
20H02573
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
柳 和宏 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (30415757)
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研究分担者 |
蓬田 陽平 東京都立大学, 理学研究科, 助教 (90647158)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | キラリティ / ナノチューブ / 単層カーボンナノチューブ / 遷移金属ダイカルコゲナイドナノチューブ / カイラル構造 / 円二色性 |
研究実績の概要 |
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)や遷移金属ダイカルコナイドナノチューブ(TNDC-NT)といったカイラル構造を有するナノチューブ物質群においては、キラリティ性をもつカイラル構造を反映して、非相反伝導や特殊な円偏光応答やバルク光電変換といった、特異な物性が見出されることが期待される。そこで、本研究では、SWCNTにおいては、エナンチオマー分離を行い、ある片方のカイラル構造を持つ鏡像異性体を多く含んだSWCNT試料を精製し、また、TMDC-NT系においては合成技術を発展させ、そのキラリティ性を反映した新奇物性の探索をバルク薄膜で行う。特にフェルミレベルを制御した状況における新たなキラリティ物性を見出すことが目標である。 フェルミレベルを制御したナノチューブ物質群のキラリティとその物性を明らかにする為には、キャリア注入時における試料の円二色性を評価する測定技術を開発することが必要不可欠である。その技術開発に向けて、2020年度においては、薄膜試料の円偏光特性の評価技術開発と試料作製技術開発の二つの項目を実施した。 構造異方性があるナノ物質系においては、直線偏光(LD)吸収特性がある場合は、円二色性分光器を用いた場合、偽の円二色(CD)信号が測定されることが知られている。また、SWCNT系において、薄膜状態において正しくCD信号が得られるかどうか不明な状況にあった。そこで、(6,5)カイラルおよびそのエナンチオマーの(11,-5)カイラルの分離精製を行い、更にはそのラセミ体を作成し、ランダム配向薄膜を意図的に作成することでLD特性を抑制することで、右巻き・左巻きに従って正しくCD信号が薄膜系においても見出すことに成功した。 TMDC-NTにおいては、直径が20nm程の均一な試料の合成技術の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、ナノチューブ薄膜の円偏光二色特性の正確な評価が最も難しく重要な課題であった。その達成には、次の二つの大きな課題解決が必要であることを把握していた。一つ目は、ナノチューブの構造異方性から、LD特性が存在する場合、偽の円二色性信号を検出してしまう可能性があった。二つ目は、チューブ軸に平行に円偏光の光が照射される場合に顕著な二色性が観測されることが理論的予想であり、ナノチューブが平面上に配置された薄膜系では、観測が困難な可能性があった。コロナ下で研究活動が制限される中、(6,5)および(11,-5)のエナンチオマー分離を高純度で行い、更に、そのラセミ体の薄膜を作製することを達成した。その後、配向を意図的にランダムにすることにより、正しく円偏光二色特性を評価することに成功した。ランダム膜を用いることにより、偽の円二色性信号を除去できることを明らかにした。また、(6,5)および(11,-5)薄膜で相反する円二色性信号を正しく測定できることを解き明かした。よって、本研究課題で最も大きな課題であった点を克服したと言える。またTMDC-NTにおいては、直径20nmの均一な試料を得ることに成功した。以上により、当初の計画通り順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
【薄膜試料の円偏光特性の評価技術開発】 2020年度においてナノチューブ薄膜系において試料のキラリティを反映した正しいCD信号を得ることを達成した。次に、電解質ゲーティングとCD測定を組み合わせた研究を進める。市販の円偏光二色性分光器の試料室に、電極端子や不活性ガス導入口を設け、その後、電解質ゲーティングとCD測定を組み合わせ、キャリア注入制御下におけるCD測定を進める。はじめにエナンチオマー分離を行った(6,5)および(11,-5)薄膜に対して、キャリア注入によるスペクトル変化を検証する。電解質としてはイオンゲルを用いて、はじめに偽のCD信号が出ない形でデバイス構造の最適化を検討する。キャリア注入とともに、既存のピーク構造の変調のみならず、近赤外領域において理論予想されている新たなピークの出現を検出することが狙いである。 【キラリティを選択したSWCNTの配列膜作成とレーザー分光系の整備】 これまで培ってきた配列膜作成技術を用いて、エナンチオマー分離を行ったSWCNTを配列させる膜作成技術開発を進める。また、フォトガルバノ効果の検出に向けて、デバイスに円偏光を照射可能なレーザー分光系の整備を進める。 【TMDCナノチューブ試料作製技術開発】 TMDCナノチューブにおける、直径がより小さいナノチューブや、異なる元素組成を有するナノチューブの合成技術開発を進める。テンプレートとして用いる、酸化物ナノワイヤーを孤立させた状況でのカルコゲナイド化や、異なるカルコゲナイド、遷移金属を用いて、合成技術を開発を進める。
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