研究課題
近年、トポロジカルに保護された物質群が見出され、擾乱に強い量子ビットを実現するための基材として注目されている。この物質群を利用できれば、スピン流を磁場の印加なしに制御できるデバイス実現の可能性があり、磁場印加のため大がかりな機器(超伝導回路など)を必要としないシステムの創出が期待される。しかし、稀有なトポロジカル物質「そのもの」を如何に作製するのか、物質プラットフォームに大きな課題がある。我々は、潜在的に「トポロジカル相を示すと予測されている物質」を「変換して」トポロジカル物質に変えてしまおう、と考えている。特に、溶液化学を駆使して、「安定に」「大面積で」「任意の位置に」「必要な形、数で」トポロジカル相へと変換し、将来の万能量子コンピュータの物質プラットフォームを創るための研究を進めている。本年度は、対象となる原子層物質として、単層および多層の遷移金属カルコゲナイド結晶(TMDC結晶)に対して、トポロジカル絶縁体相を定量的に発現させることを意図し、分子処理方法の検討・検証を行った。検証方法として、顕微鏡ラマン分光法を用い、極薄(1 nm-10 nm厚)の結晶性サンプルの相状態について、通常の物質相であるのか、トポロジカル絶縁体に由来する相であるのか、その詳細を調べた。多様な分子処理方法を検証した結果、トポロジカル絶縁体相の発現を示唆するシグナルを得ることに成功した。従って、我々が研究対象としている、分子処理の有効性が確認されつつある状況である。また、状態を確認するための低温測定設備として、プローブステーションを立ち上げ、その動作検証および、利用環境を整えた。
2: おおむね順調に進展している
定量的に物質相を発現する方法論を確立しつつある。また、低温計測装置の導入および立ち上げを行なった。これらは当初予定していた通りである。
トポロジカル絶縁体相を示唆する結果が得られたが、それをさらに検証する必要がある。例えば、単層結晶面内において、均一な発現が起きているのかを検証する必要がある。また、多層の結晶に対しては、第一層と第二層以下を分けて状態を検証する必要があり、各層における相の関係性を明らかにしたいと考えている。つまり、全てのバルク層がトポロジカル絶縁体相になっているのか、否か、という点についての検証を行い、今後のデバイス測定に向けたサンプル調整方法の基盤を確立したいと考えている。および、低温測定を実施する。低温において、単にトポロジカル絶縁体に由来する一定の抵抗値(量子化抵抗値)を観測するのみならず、本物質特有の界面に溜まった電子状態が示す創発的現象についても検証を進める。
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