研究課題
近年注目を集める遷移金属カルコゲナイド(TMDC)は、トポロジカル相を示す物質群として知られている。ただし、大気下で安定なTMDC結晶の多くは半導体特性(1Hや2H相)を示し、トポロジカル相ではない。本研究では、温和かつスケーラブルな「溶液化学プロセス」を用いて、量子トポロジカル相を作製するための分子化学技術を拓くことを目的としている。このための課題として、TMDCにおいてトポロジカル相(1T'相)へと如何に変化させるか、があげられる。既往研究において、TMDCへの高キャリア濃度の注入が有効であると示唆されている。本年度は、電子ドナー性の分子接合によるTMDCへの電子注入能の評価、さらに低温における輸送特性の測定を実施した。実験として、TMDCの一つであるMoS2の電界効果トランジスタを作製し、ビオロゲン系分子種を作製したトランジスタへと処理をした。分子接合処理を行なった結果、室温において縮退した電子状態を確認した。このトランジスタに対して、伝導度の温度依存性を測定したところ、温度の低下に伴い伝導度の上昇を確認した。このことは、分子接合に伴い、MoS2は半導体から金属的な状態へと変化していることを意味する。従って、分子化学手法による、MoS2への高濃度電子注入の可能性が示唆された。上記の実験結果に加えて、興味深い現象を確認した。トランジスタのゲート電圧依存性において、伝導度の振動状態が観測された。従来、伝導度はゲート電圧に依存した単調な変化を示すことから、異なる挙動である。この伝導度の振動現象の要因として、量子的な状態が絡んでいると考えている。分子化学的な処理を絡めた物質に特徴的な現象が発現している可能性を視野にいれ、量子的な伝導現象発現の可能性を模索するに至っている。
2: おおむね順調に進展している
低温における伝導度の温度依存性を実施するための分子接合したTMDCデバイスを作製し、評価を行った。この点は当初の予定通りである。さらに、極低温における興味深い伝導挙動を見出したとことからも、順調に進んでいると評価をした。
TMDC結晶に対してキャリア濃度を高濃度変調させる必要がある。従って、さらなる分子技術の進展が必要と考えている。この技術の延長上に、TMDCの相を任意に制御する技術へ近づけるものと期待をしている。加えて、新たに見出した伝導度の振動現象について、さらに検証をする必要がある。例えば、物質内部において均一に電子状態が変化しているのか、など要因を探ってゆく。
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