研究課題/領域番号 |
20H02575
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
久保田 佳基 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50254371)
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研究分担者 |
松田 亮太郎 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (00402959)
河口 彰吾 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (10749972)
石橋 広記 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70285310)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガス吸着 / 多孔性配位高分子 / 放射光粉末回折 / 結晶PDF解析 |
研究実績の概要 |
昨年度、結晶構造解析に成功した多孔性配位高分子CID-35の類縁物質であるCID-31:[Zn(ipa)(dpe)]n(ipa=イソフタル酸、dpe=1,2-ジ(4-ピリジル)エチレン)のアセチレン吸着状態の結晶構造解析を行った。CID-31はCID-35と配位子がわずかに異なる同型の結晶構造を持つが、アセチレン吸着量は1分子と非常に少ない。原子1個の違いで吸着特性が大きく異なっていることはとても奇妙であり、ガス吸着構造解析を行った。その結果、シート状のipa分子とアセチレン分子間のπ-π相互作用やπ-H相互作用がCID-35よりも強いことが示唆された。 ピラードレイヤー型のCPL-1のdegas状態およびアルゴンガス吸着状態のX線全散乱データを測定して結晶PDF解析を試みたが、高いQ値の領域のデータの統計精度が不十分であったためにPDFの相関距離が短い部分を議論することは困難であった。炭素原子同士に比べてアルゴンガス分子同士の相関は見えやすいため、温度変化による構造変化が観測できると期待され、現在解析中である。 吸着等圧線において温度上昇とともに吸着量が増加する特異な挙動を示す多孔性配位高分子CID-3のC2ガス吸着構造解析を行った。温度上昇により吸着量が増加した後、減少した際にC2ガスとシート状配位子とが強く相互作用していることが示唆され、このことが骨格構造の変形を抑制していると理解された。 上記と平行し、ガス・蒸気圧力制御システムを用いて、ガス吸着初期過程の粉末回折データの測定を行った。CPL-1を対象として取得したデータから多孔性配位高分子のガス取り込み、ガスの細孔内への拡散の挙動に関する情報を得るべくこれらのデータを解析中であるが、予備的な解析の結果について国際結晶学連合会議IUCrおよび日本結晶学会において発表し、現在、論文発表準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲートオープン型吸着を示すInterdigitated型多孔性配位高分子を中心に、SPring-8の粉末結晶解析BL02B2において粉末回折ガス吸着その場測定を行い、ガス吸着構造を明らかにしてきた。その結果、特異な吸着挙動の解明につながる、ガス分子の吸着位置や配向、配位子の変化、ゲストおよびホストの相互作用の情報を得ることができた。これらの成果については順次論文発表を進める予定である。 一方、結晶PDF解析については、Q≦20A^-1の空間分解能の全散乱データの測定を多孔性配位高分子試料に対して行ったが、統計精度が不十分であったために短い距離の相関を議論することができない失敗もあった。加えて、放射光実験において、ガス吸着が期待通り進まず、本来の目的の測定に至らなかったことも幾度かあった。本課題では、その原因の一つが結晶構造の乱れであるとの観点で調べることを目的としているが、正常にガスが取り込まれた状態の構造情報も必要である。そのためプロファイルがよくわかっている試料、ガスの組み合わせで測定、解析を完了することが優先されると考えている。吸着が進まない別の原因のひとつとして、測定前にPCP粉末試料の細孔内ゲスト分子を取り除く加熱真空引きにおいて、処理温度が高く、結晶性が損なわれている可能性が、本課題で購入した高精度ガス/蒸気吸着量測定装置を用いた吸着等温線測定から示唆された。この結果を基に今後、試料の再調整や適切な前処理条件の設定を行い、実験に臨む予定である。 以上より研究の進捗は少し遅れているが、問題点は明らかになりつつあり、今後は速やかに進めることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、ピラードレイヤー型のCPL-1のdegas状態およびアルゴンガス吸着状態のX線全散乱データを測定し、結晶PDF解析を試みた。degas状態について温度変化を測定したが、高いQ値の領域のデータの統計精度が不十分であったためにPDFの相関距離が短い部分を議論することは困難であった。本年度は、引き続きCPL系PCPを対象として、再度十分な統計精度の全散乱データを取得して結晶PDF解析を行い、ガス吸着に伴う構造変化を追うための基礎的データとする。 アルゴンガス吸着状態については、吸着分子数が結晶構造の対称性とは対応しない中途半端な数になっているときの吸着構造を、平均構造と局所構造の両側面から調べる。また、吸着ガスの圧力を精密制御して吸着開始圧力付近での全散乱データを測定して、吸着初期過程での構造の乱れの情報を抽出することを目指す。 PCP粉末試料の前処理条件が不適切であり、試料の結晶性が損なわれている可能性については、新しい試料を調整、前処理条件の精査、そして、吸着等温線測定による試料の状態の確認などを行って明らかにしたうえで、十分に準備をして放射光実験に臨む予定である。 なお、今年度後半に、SPring-8ではアンジュレータ光源を利用可能な粉末回折ビームラインが供用開始する予定であり、これまで以上の高精度回折・全散乱データが測定できる見込みである。本年度最終年度では、PCPのガス吸着過程の構造変化を、平均構造と局所構造の両側面から可視化し、ガス吸着過程全容を明らかにして研究成果をまとめる予定である。
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