研究課題/領域番号 |
20H02578
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
玉井 尚登 関西学院大学, 理学部, 教授 (60163664)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 半導体量子ドット / 青色発光 / 界面エンジニアリング / フェムト秒分光 / キャリア素過程 |
研究実績の概要 |
A)青色発光CQDsの合成とキャリア素過程の解析:青色発光を示すCQDsとしてZnTe CQDsを合成したが,種々の条件探索にもかかわらず発光量子収率が非常に低かったので,Seを含むZnSeTe,コアシェルZnSeTe/ZnS CQDsを合成した。しかし発光量子収率は高々数%でフェムト秒過渡吸収分光においても数psの速い励起子緩和が観測された。 一方,InGaPはCdフリーの青色発光を示すCQDsとして重要であり,その合成とキャリア素過程の解明を行った。In(Zn)P CQDs合成では,Zn添加によりP前駆体の反応性を制御し粒径分布の狭いものを合成した。またGa源を添加し,InGa(Zn)P,コアシェルInGa(Zn)P/ZnS CQDsを合成した。種々の構造解析により全てのCQDsが閃亜鉛鉱構造であり,Gaの添加量と共にPXRDの散乱角度が高角度側に偏移する事からInGaP CQDsが合金化している事を明らかにした。CQDsの粒径はGa添加量によらずほぼ同じであるが,励起子吸収・発光極大波長はGa量と共に青方偏移した。発光量子収率は,InGaP CQDsで4%程度,コアシェルInGaP/ZnS CQDsで7%程度であり,条件探索を行ったが大幅な収率増加には至らなかった。 フェムト秒過渡吸収分光の解析から,CQDsのトラップ状態が高励起状態からバンド端を経由せずに直接生成すること,また多励起子によるオージェ再結合は,粒径が変わらないにもかかわらずIn(Zn)P CQDsよりもGa含有InGaP CQDsでより速くなっており終状態の状態密度が関与している可能性を明らかにした。 B)OPAシステムの最適化:増幅Ti:SapphireレーザーのPCセルやパルス圧縮回折格子の交換・最適化を行い,30%以上の出力アップと安定化,およびOPAシステムの最適化を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一昨年度は,青色発光でありながら高い発光量子収率を示すZnSe CQDsのコロイド合成に成功している。青色発光CQDsのvarietyを増やす為,昨年度はこの手法を真似て,バルクのバンドギャップがZnSe (Eg = 2.82 eV) より小さく長波長側に発光帯を持つZnTe (Eg = 2.26 eV) を用いてZnTe CQDsの合成を試みた。しかし励起子吸収はCQDsに対応したスペクトルが観測されるものの,発光量子収率が1%以下と非常に低くなった。温度やinjection時間等のパラメータを幾つか振ってZnTe CQDsを合成したが,発光量子収率は低いままであり,その理由が不明である。代替CQDsとしてSeを添加したZnSeTe CQDsをコロイド合成したが,これも高々数%の発光量子収率であり,ZnSシェルを施したコアシェルCQDsでもその倍程度にしかならず,良質なZnTe系CQDs合成に苦戦している。 一方,SeやTeを含まない青色発光を示すIII-V族CQDsに関しては,In(Zn)P CQDsおよびInGa(Zn)P CQDsを合成すると共に,ZnSシェルを接合したコアシェルCQDsも合成した。また,これらCQDsの構造解析を行いフェムト秒分光によるキャリア素過程も解明できた。しかし,InGa(Zn)P,InGa(Zn)P/ZnS CQDsの発光量子収率は10%以下とそれ程高くなく,条件探索を行っても大幅な改善は見られなかった。 また,一時期,フェムト秒分光によるキャリア素過程の解明に必要なOPAの性能が低下し,改善に少し時間がかかったので進捗状況にやや遅れが見られた。
|
今後の研究の推進方策 |
ZnTe CQDsおよびInGaP CQDsをコロイド合成しその光学特性を解析したが,種々の条件探索にも関わらず高い発光量子収率を得る事が困難であったので,高い品質が得られているZnSe系ナノ結晶(CQDs, ナノプレートレットNPLs)に焦点を当て研究を行う。 A)ZnSe CQDs, コアシェルZnSe/ZnSeS CQDsの励起子素過程の温度依存性と電子移動 Zn系CQDsの1S吸収における励起子微細構造は研究されておらずデータが無いので,発光スペクトルの温度依存性や発光寿命測定によってダーク状態のエネルギー分裂幅等を解析する。Zn系CQDsを高分子膜中に分散させた試料を調整し,低温クライオスタットを用い発光・励起スペクトル,発光寿命の温度依存性,および過渡吸収ダイナミクスを解析し,ダーク状態に関するデータを得る。過渡吸収の励起光強度依存性から,Auger再結合の温度依存性を解析し,以前の我々によるCdTe CQDsのデータと比較する。また,可視OPAの倍波や3倍波267 nmを励起光に用いZnSe/ZnS,ZnSe/ZnSeS CQDsのシェルZnSを主に励起し,コアZnSeの1Sブリーチダイナミクスの立ち上がりを求める。これによりシェルからコアへの電子移動速度を解析し,InP/ZnSe/ZnS コアシェルCQDsとの比較から障壁の高さ・シェル厚みとキャリア移動速度の相関を解明する。 B)ZnSe NPLsの合成と光物性の解析 2020年にZnSe NPLsが初めて合成されたが,その励起子素過程は未解明で発光寿命さえ測定されていない。1次元量子閉じ込めのZnSe NPLsをコロイド合成すると共に,この光学特性,励起子素過程,マルチエキシトンダイナミクスを種々の時間分解分光で解析し,青色発光半導体ナノ結晶の基礎データとする。
|