研究課題/領域番号 |
20H02580
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 智也 北海道大学, 低温科学研究所, 特任助教 (50735032)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 透過型電子顕微鏡 / タンパク質 / 結晶化 / 溶液セル |
研究実績の概要 |
本研究は溶液セルを用いた透過型電子顕微鏡法(TEM)において、過飽和度を制御する手法を開発し、溶液からの結晶の核生成を捉え、その描像を明らかにすることを目指す。特に、タンパク質の結晶化に着目し、その結晶核ができる瞬間を高い時間・空間分解能で可視化することを目指す。 昨年度は、既存の電極を搭載した溶液セルとタンパク質の結晶化系をスケールアップさせたコロイド粒子系を用い、コロイド粒子に誘電泳動力を働かせ、その挙動をその場観察した。その際、光学顕微鏡とは異なり、TEM観察においては粒子を電極の周りに効率よく集めることができないという現象を発見した。これは電極周囲に粒子を集めるために十分な誘電泳動力が粒子にかかっていないためである。またタンパク質などの数ナノメートルから数十ナノメートルの粒子に有効な誘電泳動力を働かせるには高い電場勾配力が必要である。これらを解決するため、本年度は電極間のギャップを数マイクロメートル以下にした溶液セルを作製した。これを用い、光学顕微鏡下でコロイド粒子、フェリチンタンパク質分子を観察したところ、電極間にこれらの粒子が集まる様子を捉えることに成功した。また、TEMによる観察では、コロイド粒子が電極周囲に集まっている様子を捉えることに成功した。集められたコロイド粒子はブラウン運動をしていたため、高濃度の液相として集合していると考えられる。また、電子ビームを強くすることによって、粒子の濃集体が発散する様子も捉えることに成功した。 また、試料冷却TEMホルダーを用いた液体試料の過飽和度制御は、既存の手法での溶液セル作製を検討したが、作製が非常に困難であった。一方、真空中で液体の状態を保持できるイオン液体をTEMグリッドに添付し、試料冷却TEMホルダーを用いて試料の冷却を行った。その結果、冷却によって結晶化したイオン液体の結晶を観察することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は誘電泳動力によってタンパク質分子を電極の周囲に集めることができる溶液セルを開発し、それを用いて粒子が電極周囲に集まるかをその場観察した。その結果、コロイド粒子、及び、フェリチンタンパク質分子が電極周囲に集まる様子を光学顕微鏡で捉えることに成功した。また、コロイド粒子が電極周囲に集まる様子をTEMで捉えることに成功した。一方、フェリチンタンパク質分子が電極周囲に集まる様子はまだTEMで捉えることはできていない。このように当初の計画どおりにタンパク質分子を局所的に集めることができる溶液セルを開発することには成功したが、これを用いて、TEM観察によってタンパク質分子が集まる様子を可視化することにはまだ成功していない。一方、より幅広い試料に用いることができる試料冷却TEMホルダーを用いて、イオン液体試料を冷却することで結晶を作製し、それを観察することに成功した。これにより、試料冷却TEMホルダーによる過飽和度制御が可能であることが分かり、溶液からの結晶化を観察できる見込みが立った。これは本研究課題開始時の計画にはなかったが、研究の目的を遂行に繋がる成果である。 以上より、当初の計画より進捗している部分と進捗していない部分を総合的に判断し、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
作製した電極を搭載した溶液セルを用いて、タンパク質分子を局所的に集める実験を行う。TEMで観察できない要因はいくつか存在すると考えられ、これらは実験条件を検討していくことで解決可能であると考えている。そのため、タンパク質分子を局所的に集めることができる実験条件を検討し、結晶化実験へとつなげる。 また、試料冷却TEMホルダーを用いてタンパク質の結晶化を観察できる見込みがたったので、電極を用いた手法と並行して取り組む予定である。こちらでは、このホルダーに用いることができる溶液セルの治具を開発し、タンパク質の結晶化溶液を冷却することで従来よりもはるかに効率よく結晶化を観察することができると考えている。
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