研究課題/領域番号 |
20H02583
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
荒磯 裕平 金沢大学, 保健学系, 助教 (20753726)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 膜透過装置 / TOM複合体 / ミトコンドリア / タンパク質輸送 / 高速原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、ミトコンドリアタンパク質搬入ゲートTOM複合体がサイトゾルからミトコンドリアタンパク質を取り込む分子メカニズムを解明することを目指し、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)による動的構造解析を試みている。 研究1年目は、まず、HS-AFM解析に必要な高純度のTOM複合体の精製系を確立した。Tom22サブユニットのC末端にHis-tagを導入した酵母株から単離したミトコンドリアを可溶化し、2段階のクロマトグラフィー精製により均一な精製TOM複合体が得られた。生化学解析から、精製TOM複合体はTom40、Tom22、Tom20、Tom7を有する分子量約450kDaのヘテロ膜タンパク質複合体であることが示唆された。 次に、精製TOM複合体に対して界面活性剤存在下でHS-AFM解析を行い、2分子のTom40チャネルを含む二量体、3分子のTom40チャネルを含む三量体と考えられるTOM複合体粒子を観察することに成功した。HS-AFM像から抽出したラインプロファイルによってTOM複合体粒子の高さ(z軸方向)を計測したところ、本研究で観察されたTOM複合体粒子の分子サイズは、以前我々が報告したTOM複合体のクライオ電子顕微鏡構造とよく一致することが明らかになった。さらに、三量体から1分子のTom40チャネルが外れて二量体へ、または二量体に1分子のTom40チャネルが結合し三量体へと構造変換する様子を可視化することにも成功し、構造変換機構の一端が明らかになった。 以上の解析によって、試料精製と粒子観察の条件を最適化することに成功し、タンパク質取り込みや構造変換といった複雑な現象を可視化し、分子メカニズムを解明するための研究基盤・研究体制を構築することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜タンパク質複合体の動的構造解析のためには、研究の初期段階において「均一で純度の高いタンパク質試料の精製」と「観察条件の最適化」が達成されることが重要である。 本研究課題では、研究1年目において、この両方を十分に満たす実験条件を見出すことができた。現在、ここまでの研究成果について学会発表準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に得られた研究基盤を発展させ、動作中のTOM複合体の(1)構造変換機構の解明と、(2)タンパク質取り込みの可視化を試みる。 まず、より生体内に近い状態での観察を目指して、脂質二重膜に再構成したTOM複合体の観察条件を最適化する。 (1)については、TOM複合体を構成する各サブユニットの任意の位置にタグを導入した変異タンパク質を数種類作成し、それぞれの変異タンパク質に対してHS-AFM解析を行う。タグの導入位置に基づきクライオ電顕構造を参照しながら、HS-AFM像における各サブユニットの空間は位置を決定し、構造変換機構を詳細に検討する。 (2)については、観察に用いる候補基質を数種類デザインし、ミトコンドリア輸送アッセイによって輸送活性が高い基質を絞り込む。こうして得られた基質タンパク質をTOM複合体に添加し、HS-AFM解析によってTOM複合体の動作と基質タンパク質の動態を解析する。
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