界面活性剤を含む溶液中のTOM複合体のダイナミクスを高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)によって解析した。試料精製・観察条件の最適化をさらに進め、TOM複合体粒子を再現性良く観察することが可能となった。その結果、精製TOM複合体粒子は均一な3量体構造をとっているが、観察を続けていく中で2量体と単量体に容易に解離することが明らかになった。ここで得られた3量体、2量体のHS-AFM像は、3量体のモデル構造、2量体のクライオ電顕構造から生成した予測AFM像とよく一致することも示され、TOM複合体の3量体と2量体の関係性が明らかとなった。これらの結果より、TOM複合体はミトコンドリア膜上で3量体として機能するが、等価な3つの単量体が集合しているのではなく、安定な2量体コア構造に不安定な単量体が結合した(2+1)型の3量体構造をとっていることが考察できる。さらに、TOM複合体によるタンパク質の認識・取り込み機構を解析するためTOM複合体に基質タンパク質を添加し、HS-AFMによって分子動態を観察した。モデル基質にはATP合成酵素由来のミトコンドリア行きシグナル配列(pSu9)を持つ人工基質タンパク質(pSu9-DHFR)を用いた。観察中のTOM複合体にpSu9-DHFRを添加したところ、pSu9-DHFRが3量体、及び2量体のTOM複合体粒子に相互作用する様子をリアルタイムで可視化することに成功した。現在は、任意のHS-AFMデータにおいてTOM複合体とpSu9-DHFRの位置情報を数値化し、TOM複合体における基質タンパク質結合部位の同定を試みている。解析が順調に進めば、3量体TOM複合体の基質認識部位が明らかとなり、ミトコンドリアタンパク質輸送の新規分子メカニズムの解明が期待できる。
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