研究課題/領域番号 |
20H02585
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 敬宏 京都大学, 高等研究院, 特定准教授 (80423060)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 1分子観察 / 超解像観察 / 細胞膜 / アクチン膜骨格 / 閉じ込め効果 |
研究実績の概要 |
分子反応を本質的に制御していると考えられる「閉じ込め効果」の生体内での直接測定は、測定技術の時間/空間精度の限界のためにこれまで極めて困難であった。本研究ではその技術的限界を打破し、細胞膜上のアクチン膜骨格の仕切りを超解像観察しながらその中での分子反応の素過程を1分子直接観察することにより、「閉じ込め効果」の原理の理解の飛躍的な加速を目指す。この目的を達成するため、以下の5段階で研究を推進する。 [1] 25μs時間分解能での1蛍光分子追跡の達成、[2] 5秒間でのアクチン膜骨格の仕切りの生細胞超解像観察の実現、[3]「分子衝突局所増幅効果」の1分子直接観察、[4]「オリゴマー誘起トラッピング効果」の1分子直接観察、[5]「機能ドメイン動的複合体」形成制御機構の解明。令和3年度は [3]、[4]を目標とし、以下の研究進捗があった。 (1) 1分子高速運動観察とアクチン膜骨格の仕切りの超解像同時観察技術の確立 最短で5秒間の観察で得たアクチン膜骨格の超解像画像に対し、数種類の細線化 (skeletonize) の画像処理アルゴリズムを適用し、アクチン膜骨格の仕切りを検出するのに最適なアルゴリズムを選定した。それにより、検出した仕切りと、最速25μs時間分解能での1分子運動同時観察で得られた軌跡を重ね合わせる技術を確立した。 (2) アクチン膜骨格の仕切りによる「閉じ込め効果」の1分子直接観察 Gタンパク質共役型受容体の動的ダイマー形成に注目して、アクチン膜骨格の仕切りによるモノマー、および、ダイマー以上の複合体に対する運動抑制効果を調べた。モノマーに比べてダイマー以上の会合体に対する仕切りの「閉じ込め効果」が大きく、同時観察時の仕切りごとのホップ拡散の滞在時間が異なることを示唆するデータが得られつつあり、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この2年間で、目標としていた生細胞における最短5秒間でのアクチン膜骨格の超解像画像取得と膜骨格の仕切りの検出、および、最速25μs時間分解能での1分子運動同時観察で得られた軌跡の重ね合わせを達成した。最終年度の目標である「機能ドメイン動的複合体」形成制御機構の解明において取り上げる、「接着斑動的群島構造仮説」の検証に向けて、既に予備実験を開始している。その過程で、接着斑中で共存するアクチン膜骨格の仕切りと群島構造が、10秒程度のタイムスケールで刻々と再編成を行っている可能性を見出した。この機構を明らかにするため、超解像蛍光プローブの選定と観察条件の最適化、ドリフト補正方法の検討をおこない、1分程度の長時間にわたって超解像観察を継続する技術の確立を進めている。この技術を応用することにより、「機能ドメイン動的複合体」形成制御機構に関する更なる知見がもたらされることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度 (最終年度) は、この2年間で開発と改善を進めてきた、最速25μs時間分解能での1分子運動観察と細胞膜構造の超解像同時観察技術により、「アクチン膜骨格の仕切りが担う、機能ドメイン形成制御機構」の解明を目指す。 (1)「分子衝突局所増幅効果」、「オリゴマー誘起トラッピング効果」の直接観察と検証:平成3年度に引き続き、Gタンパク質共役型受容体の動的ダイマーに注目して、アクチン膜骨格の仕切りの「閉じ込め効果」によるダイマー形成誘導および安定化、および、ダイマー以上の会合体に対する長距離拡散の抑制を1分子レベルで直接観察する。 (2)「接着斑動的群島構造仮説」の検証:細胞運動を担う重要な細胞-基質間接着構造である接着斑に注目し、アクチン膜骨格の仕切りとの共存により、接着斑がどのような形成制御を受けるかを明らかにする。我々はこれまで、数ミクロンのサイズの接着斑が、アクチン膜骨格の仕切りを足場とし、100 nm以下のサイズの数分子-数10分子の接着斑構成分子複合体からなる群島構造により制御される、という仮説を提案してきた。アクチン膜骨格の仕切りと群島構造の超解像同時観察、および、その中でのインテグリンをはじめとする群島構成分子の1分子高速運動観察を組み合わせることにより、その仮説を検証し、1分子機構を解明する。 (3)アクチン膜骨格再編成による閉じ込め効果の局所光制御:アクチン重合活性の局所光制御が可能なアクチン制御タンパク質(Rac1、コフィリン)を利用し、局所的なアクチン重合を誘起して、上記の(1),(2)で検証する「閉じ込め効果」への影響を調べる。
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