分子反応を本質的に制御していると考えられる「閉じ込め効果」の生体内での直接測定はこれまで極めて困難であった。本研究ではその技術的限界を打破し、細胞膜上のアクチン膜骨格の仕切りの中での分子反応の素過程を1分子直接観察することにより、「閉じ込め効果」の原理の理解の飛躍的な加速を目指した。令和4年度は以下の研究進捗があった。 1.「オリゴマー誘起トラッピング効果」の1分子直接観察 EGF受容体のリガンド刺激依存的なダイマー化の促進と下流のシグナル伝達の制御において、「閉じ込め効果」が果たす役割を調べた。リガンド刺激前後でEGF受容体の運動が閉じ込めを受ける領域の面積に変化はない一方で、仕切りごとの滞在時間が1.5倍長くなった。このことから、仕切りによる「オリゴマー誘起トラッピング効果」が、細胞膜上のEGF刺激を受けた領域で受容体とシグナル分子複合体の長距離運動を抑制し、刺激後のシグナル伝達を局所化する役割を果たしている可能性が示された。 2.「接着斑動的群島構造仮説」の検証 細胞運動を担う重要な細胞-基質間接着構造である接着斑に注目し、アクチン膜骨格の仕切りとの共存により、接着斑がどのような形成制御を受けるかを調べた。2色同時生細胞超解像観察により、パキシリン、タリン、ビンキュリンなどの接着斑構成分子がそれぞれ少数集まって形成される直径約30 nmのナノクラスターが、直径約300 nmの領域に集まってサブミクロンスケールの群島構造を形成することにより、接着斑の構造が階層的に組織化されていること、この群島構造は10秒程度のタイムスケールで刻々と再編成されていること、群島以外の領域はアクチン膜骨格の仕切りで占められており、接着分子のインテグリンは接着斑の内部でもホップ拡散で群島の間を移動できること、が明らかになった。
|