研究課題/領域番号 |
20H02591
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小穴 英廣 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20314172)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロ流体デバイス / 1細胞解析 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
溶液の塩濃度を生理的塩濃度よりも少し高くすると、静電相互作用が弱められた結果、染色体を構成しているタンパクの一部が解離をはじめ、染色体が穏やかに解きほぐれてくることが知られている。本研究課題においては、この染色体が穏やかに解きほぐれた際に観察される、クロマチンファイバーに沿った凝縮/脱凝縮部分の分布及びその動態とヒストンタンパクの化学修飾の分布との相関を1細胞・1分子レベルで解析する手法を新奇マイクロ流体デバイス開発を通じて実現する事を目指している。 本年度は、「顕微鏡下・その場」で動物細胞から単離した染色体をマイクロ流体デバイス中の所定の場所に配置し、部分的に脱凝縮させた染色体(クロマチンファイバー)上における凝縮部/脱凝縮部の分布とその動態を明らかにする方法の確立に向けて、解きほぐした染色体に張力が均一な直線状の形態を取らせる微細構造の設計・製作とその有効性の検証に取り組んだ。また、「標的塩基配列と相補的な1本鎖ガイドRNA」と「蛍光ラベルdCas9タンパク質」から成る複合体を作製して蛍光プローブとして用い、マイクロ流体デバイス中における単離染色体の識別技術構築にも取り組んだ。その結果、染色体の両端固定技術開発については、新規に開発した形状・配置のマイクロピラーを有するマイクロ流体デバイスを用い、染色体の両末端での固定を達成した。また、染色体識別技術開発については、染色体の凝縮度を低下させながら蛍光プローブを作用させるというプロトコルを作成し、これまでよりも蛍光ラベル効率を改善することを達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
染色体の両端固定は、ギャップ間が3-4 umのマイクロピラー間に、染色体を捕捉した直径6 umの抗体修飾マイクロビーズを挟むことで達成するという方式を採用している。この微細構造作製過程において、マイクロピラーが微小且つギャップ間が小さいことの影響により、回折現象が主因と考えられるモールド(ネガレジストを用いて作製)の作製不良が頻出するようになった。この問題については、マスクとフォトレジストとのコンタクトを十分に図ることで歩留まりを改善することができた。そして、このマイクロ流体デバイス内で、細胞から単離した染色体のセントロメア付近とテロメア付近をそれぞれマイクロピラーに固定する事を達成した。このマイクロ流体デバイスを用いた塩濃度増加に伴う染色体の解きほぐしについては、これまでの我々の研究グループの結果と同様な応答が見られたので、今後は、その凝縮/脱凝縮部の分布計測に取り組もうとしているところである。 特定の塩基配列部の蛍光可視化については、標的配列によっては、ラベル効率が非常に低いことが明らかとなった。今後は、ラベル効率が比較的高く蛍光可視化が可能な標的配列探索と、染色体の膨潤化処理を中心としたラベルの最適化条件探索に取り組んで行くことを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
1分子レベルでのクロマチン凝縮プロファイル動態観察を行うため、両端固定した染色体/クロマチンファイバーに対し、化学修飾を受けたヒストンに特異的に結合する蛍光ラベル抗体を用いたマルチカラー免疫蛍光染色を行い、クロマチンファイバーに沿った凝縮部/脱凝縮部の分布との位置の相関を明らかにする。試料には、引き続きマウスES細胞を用い、既知のエピジェネティクス解析データと比較することで、顕微鏡下での個々のクロマチンファイバーに対するエピジェネティクス解析手法の再現性と信頼性を確認することに取り組む事を計画している。ここでは、両端固定した染色体/クロマチンファイバーを均一な張力で伸張し保持することを計画しているが、その時の両端に懸かっている力についての見積も同時に行えるよう、光学系の改造を行っていく事を考えている。 特定の塩基配列部の蛍光可視化については、ラベル効率が比較的高く蛍光可視化が可能な標的配列探索を進めると同時に、蛍光プローブを結合させるリピート配列部の洗い出しを行い、染色体の識別を行うためのデータの蓄積・整理を進めていく事を計画している。そして膨潤化処理を中心としたラベルの最適化条件探索に取り組んで行くことを計画している。
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