研究課題/領域番号 |
20H02594
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
オケヨ ケネディオモンディ 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 講師 (10634652)
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研究分担者 |
小穴 英廣 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20314172)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 血液脳関門 / 血管内皮細胞 / 接着環境制御 / アストロサイト / TEER測定 / 共培養システム / 生体模倣システム / 細胞シート |
研究実績の概要 |
血液脳関門(blood-brain barrier,BBB)は,脳内毛細血管の内皮細胞が形成する密着結合からなる強力なバリアであり、血液から脳内への物質通過を極力制限することにより,脳内恒常性維持を担っている.本研究では,BBBのバリア機能の仕組みとその調節メカニズム解明に向け、生体内のBBBを忠実に再現した3次元BBBモデルの実現を目指した.そのため,我々が開発したマイクロメッシュ培養法を用い、強固な密着結合が形成された血管内皮細胞シートを作製することにより、血液脳関門の構成細胞が物理的にコンタクトし,直接的に相互作用しうるモデルを開発した.具体的には,線幅が5μm程度、開口部が100μm以上のメッシュ構造を有する培養基板をフォトリソグラフィ法により作成、そのうえで内皮細胞を播種して培養することにより、細胞同士の自己結合による細胞シート作成を誘導した。さらに、得られた血管内皮細胞シートの上に直接周皮細胞(ペリサイト)を播種し、ペリサイトが血管内皮細胞層に付着した二層構造モデルが得られた。この二層構造モデルと密接するようにマトリゲル包埋のアストロサイトを配置することにより、BBBを模擬した3次元共培養システムを実現した。 さらに、transendothelial electrical resistance法(TEER法) を用い、血管内皮細胞の層の形成とともにバリア能が経時的に上昇することが確認され、ペリサイトおよびアストロサイトの追加によりバリア能がさらに上昇することが確認された。また、本モデルでは、14日以上経過しても高いレベルのTEER値が維持されることも確認され、バリア能が高いだけでなく、その長期維持もできる優れたモデルであると考えられる。今後、BBBの選択的物質輸送や、薬剤の毒性評価などの研究において本モデルが活用されることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、再現性の高い血液脳関門(Blood-Brain Barrier, BBB)の三次元モデル構築を目指した。コロナ禍において研究資材の調達の難しさや実験室の使用制限などの影響もあり、研究の進め方が想定よりも難しい状況ではあったが、下記の研究を行うことができた。
当該モデル実現のため、まず、我々が開発したマイクロメッシュ培養法を適用することにより、BBBのモデル細胞として広く使われるhCMECを用い、血管内皮細胞シートを実現できた。本手法では、線幅は細く(5μm未満)、開口部が広い(100μm以上)ことが特徴のメッシュ培養基板を用いることで、細胞-基板間接着を制限し,細胞間結合による自己組織化を誘導する.メッシュ構造基板上でhCMECを播種したところ,血管内皮細胞は自己組織的に連結してメッシュの隙間を埋め,5日間で均一なシートを形成した.さらに,シート上に直接周皮細胞(pericyte)を播種することで血管細胞と周皮細胞の共培養構造を作製し、免疫染色および経上皮電気抵抗(TEER)の計測により,密着結合からなるバリア能を経時的に評価した.その結果,シート形成過程および形成後のそれぞれの段階でTEER値の上昇が確認された.すなわち,本実験により,血管内皮細胞により細胞シートが形成される段階から細胞間結合が強化することが示唆された.次に,予め作製しておいた血管内皮細胞と周皮細胞の共培養モデルに対し,マトリゲル包埋のアストロサイトを加え,血管細胞と脳細胞の三次元共培養システムを作製した.その結果,周皮細胞およびアストロサイトがそれぞれ血管内皮細胞シートに接着している様子が確認され,14日間にかけてTEER値の上昇も認められた.これより,周皮細胞,アストロサイトが血液脳関門のバリアの強化に影響を与えていることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
血管内皮細胞シートの作製法とそれを用いた3次元モデルの構築ができたものの、マイクロ流体デバイスへの統合がまだ課題となっている。また、3次元培養の安定性がまだ悪く、再現性に乏しい。今後、マイクロ流体デバイスを用いた三次元モデルを構築することにより、循環培養による細胞への栄養供給を改善させ、安定的に長期培養できるモデルを実現する。そしてその次に、本モデルを使ったBBBの物質通過実験を行う計画である。
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