研究課題/領域番号 |
20H02599
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 貴史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60828846)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 核スピン / 機械振動 / フォノン / スピンゼーベック効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、機械振動子などのマクロな力学運動からスピン励起・スピン流生成をしたり、逆にスピン励起・スピン流から力学運動を生み出す未開拓の現象群の開拓を行う。さらに、微小振動子の共振周波数に迫る低周波特性をもつ核スピンも取り入れた新しい学術の端緒を見出す。 本年度は、電子スピン系のスピン流を入力として機械振動を引き起こす新しい現象「スピン流体積効果」の実証に成功した(Nature Communications, in press)。試料には、大きなスピンホール効果を示す重金属Pt, W薄膜と高磁歪材料の接合系を用い、重金属層に流した電流方向及びスピンホール角(すなわち金属に生じるスピン蓄積方向)に応じて符号変化する磁性体材料中の体積変化を観測することに成功した。これは磁気体積効果(磁場下において磁性体の体積が変化する現象)のスピン流版といえる。理論計算との比較からスピン流注入による磁化揺らぎの変調とスピン-格子結合が重要な役割を担っていることが見出された。 また、前年度に立ち上げたMnCO3系の電子スピン波・核スピン波に対するスペクトロスコピー技術を金属系も含めたより広範囲な物質群へと拡張させるセットアップの構築を行った。絶縁性のよいモデル物質であるMnCO3とは異なり、表皮効果を無視できない金属系の核スピン波励起の観測と制御は一般に難しく、実際、核スピン波励起を明瞭に観測した例は極めて限られている。我々はスピントロニクス技術で広く利用されているブロードバンドFMR法にもとづく核スピン励起の観測方法を開拓し、金属系物質の核スピン波励起のシグナルを見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、電子スピン系のスピン流を入力として機械振動を引き起こす新しい現象「スピン流体積効果」の実証に成功した(Nature Communications, in press)。これは磁気体積効果(磁場下において磁性体の体積が変化する現象)のスピン流版といえ、スピン流を入力源として、機械振動を誘起したり、磁性体の体積を変調することが可能な新しい現象である。本現象を世界に先駆けて実証できたことは意義深い。また、本年度はMnCO3における核スピンゼーベック効果の論文発表を行った。本研究により、核スピンのもつ角運動量を界面超微細相互作用によって取り出すことが可能であり、また、核スピンが電子スピン波との混成を介して格子系と強く結合していることが見出された。本現象の逆効果を開拓することで、核スピン流に伴うエネルギー流から、格子系を発熱あるいは冷却させることが原理的に可能であり、これは未開拓の核スピン-格子結合現象の存在を意味している。このように電子スピン-核スピンの持つ新しいタイプの角運動量-格子運動結合現象の開拓に向けた道筋が立てられており、順調な進展が得られているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、機械振動子などのマクロな力学運動からスピン励起・スピン流生成をしたり、逆にスピン励起・スピン流から力学運動を生み出す未開拓の現象群の開拓を行う。更に、微小振動子の共振周波数に迫る低周波特性をもちつつ、格子系とも相互作用が期待される核スピン-電子スピン混成状態(核スピン波)も取り入れたアプローチをとる。本年度は(1)CsMnCl3やMn金属系の核スピン励起の観測と制御、(2)電流誘起核スピン-格子結合現象の開拓を行う。 (1)CsMnCl3やMn金属系の核スピン励起の観測と制御 研究代表者らは、2021年にMnCO3における核スピンゼーベック効果を実証し、論文発表を行った。得られた実験結果に基づけば、核スピンのもつ角運動量をコリンハ緩和機構によって直接取り出すことが可能である。また、理論モデルとの比較から、核スピン波が実際に(電子マグノンの仮想励起を介して)格子系と結合していることも見出している。ここで得られた知見をもとに、核スピンと電子系及び格子系との結合がさらに強いと期待される、CsMnCl3試料や現在着手を開始している高核スピン元素Mnを含む金属系を対象として、核スピン波励起の観測と制御を行う。 (2)電流誘起核スピン-格子結合現象の開拓 核スピンゼーベック効果には相反現象の存在が期待される。本効果は、非平衡スピン蓄積下で生じた核スピン角運動量及びエネルギーの流れが、最終的に格子系に伝わり、格子系を発熱あるいは冷却させる現象であり、新しいタイプの核スピン-格子結合現象といえる。本現象の実証に向けて、低温域に高い抵抗感度をもつ測温抵抗体を作製し、必要とされる低温域の温度測定技術を確立する。
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備考 |
【解説記事】吉川貴史, 齊藤英治,“スピン流とスピントロニクス”数理科学 697, 60-66 (2021).
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