研究実績の概要 |
本年度は、磁性体材料の元素置換を行うことで電子スピン波(マグノン)-フォノン間のコヒーレント結合(マグノンポーラロン)の制御を行い、これに基づいた熱流誘起スピン流現象の研究・モデル検討及び成果取りまとめを行った。対象とした物質は、イットリウム鉄ガーネットY3Fe5O12 (YIG)のYサイトをBi置換したBixY3-xFe5O12 (x = 0, 0.5, 0.9)であり、液相エピタキシー法で作製した薄膜試料を用いた。BixY3-xFe5O12ではBi量xの増加により、磁気弾性結合定数が増大する一方で、音速は減少を示す。前者の特徴は、運動量空間におけるマグノン-フォノン間の混成可能領域(すなわちanti-crossingギャップ)を増加させ、後者の特徴は、マグノンポーラロンの共鳴磁場(マグノンとフォノンの分散が接する磁場値)を減少させる。実際、スピンゼーベック効果の異常増大磁場として観測されるマグノンポーラロン共鳴磁場を、Bi置換により低磁場側に最大2テスラ程度シフトできることが明らかになった。この結果は、Bi置換によるフォノン分散の変化の描像と良く整合する。さらに局所配置と非局所配置でのスピンゼーベック効果の比較を行うことで、異方的なマグノン-ポーラロン輸送が確認された。本結果はマグノン-フォノン間のコヒーレント結合がスピン流輸送に与える影響を解明するための手がかりとなることが期待される。本成果はPhysical Review Materials誌に掲載され、Editors' Suggestionに選出された。
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備考 |
【解説記事】吉川貴史, 齊藤英治,“核スピンを利用した熱電変換”日本熱電学会誌 18, 143-144 (2022). 【解説記事】吉川貴史, 齊藤英治,“核スピンゼーベック効果の観測”応用物理 91, 745-749 (2022).
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