研究課題
近年理論的に提案されたキタエフ模型は、ハニカム格子上に配置された1/2スピン間にボンド依存したイジング型の相互作用が働く量子スピン模型である。この模型は、その基底状態として量子スピン液体状態を厳密解に持つ稀有な系である。この量子スピン液体状態であるキタエフ量子スピン液体は、マヨラナフェルミオン、Z2渦、非可換エニオンといったエキゾチックな創発準粒子の舞台となっている。本研究の目的は、トポロジカル相を規定する励起ギャップを決定することで、現実のキタエフ量子スピン液体候補物質における励起やトポロジカル相に対する理解を飛躍的に向上させることである。本年度は、ハニカム格子面内で磁場を回転させた際の比熱の磁場角度依存性を測定した。その結果、比熱における顕著な6回振動を観測した。特に、反強磁性相が抑制された7T以上での比熱の振る舞いは、キタエフ模型において理論的に期待される遍歴マヨラナ励起のギャップの磁場角度依存性と、磁場強度依存性と非常によく一致することが分かった。さらに、このキタエフ量子スピン液体状態における欠陥の影響を調べるために、電子線照射を用いた格子欠陥導入を行った。その結果、比熱において未照射の試料には存在しなかった温度の二乗に比例する項が生じた。この結果は、遍歴マヨラナ励起が欠陥の影響で局在的性質を帯びる所謂アンダーソン局在として解釈できることが分かった。一方、これらの結果においては、10T以上のより高磁場領域においてはキタエフ量子スピン液体状態から期待されるものから少し外れる振る舞いを観測している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ハニカム格子面内で磁場を回転させた際の比熱の磁場角度依存性を測定し、比熱における顕著な6回振動を観測した。反強磁性相が抑制された7T以上での比熱の振る舞いは、キタエフ模型において理論的に期待される遍歴マヨラナ励起のギャップの磁場角度依存性と、磁場強度依存性と非常によく一致している。さらに、このキタエフ量子スピン液体状態における欠陥の影響を調べるために、電子線照射を用いた格子欠陥導入を行ったところ、比熱において未照射の試料には存在しなかった温度の二乗に比例する項が生じた。この結果は、遍歴マヨラナ励起が欠陥の影響で局在的性質を帯びる所謂アンダーソン局在として解釈できることが分かった。キタエフ量子スピン液体状態を実現する候補物質はまだ少なく、これらの結果はキタエフ量子スピン液体状態における遍歴マヨラナ励起のギャップの磁場角度依存性を観測した初めての例と言える。さらにこれらの結果は、先行研究の熱ホール電導度測定において観測された遍歴マヨラナ励起によるカイラルエッジ流とコンシステントである。
本研究においては、複数のキタエフ量子スピン液体候補物質に対してトポロジカル相を規定する励起ギャップの磁場角度依存性を明らかにする。これにより励起が変化すると期待されるトポロジカル相転移を検出し、現実の物質における詳細な相図を構築することでキタエフ量子スピン液体やその準粒子励起に対する理解を飛躍的に向上させる。今後は複数のキタエフ量子スピン液体候補物質に対して測定を試み、キタエフ項の符号や非キタエフ項が相図に与える影響を調べる。比熱測定用の試料ステージは応募者が自作したコンパクトな高精度比熱測定用セルを用いる。この測定系により応募者は既存の商用装置の二桁以上上回る分解能を実現している。12Tまでの高磁場かつ100ミリケルビンの極低温環境下において、比熱の精密測定が可能となることが期待される。本研究で用いるalpha-RuCl3の単結晶試料は、応募者らの先行研究に引き続き共同研究者より提供頂いたものを用いる。さらに、YbCl3については当研究グループにおいて化学蒸気輸送法により作製する予定である。YbCl3の多結晶試料は既に入手しており、単結晶の結晶成長条件についても把握している状況である。従って、alpha-RuCl3のみならずYbCl3についても単結晶試料を用いた測定が可能であると考えている。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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