研究実績の概要 |
本年度は、一次元ディラック電子系の新物質開拓として、Ta4SiTe4と同じ結晶構造をもち、Siサイトを様々な遷移金属元素に置き換えた物質の合成を中心に取り組んだ。これまで、これらの物質の熱電変換性能に関する報告はない。その結果、十分に遷移金属元素が含まれるNb4(M, Si)Te4 (M = Cr, Fe, Co, Ni)のウィスカー結晶の合成に成功した。これらはいずれも、これまでに合成の報告のない新物質である。バルクサイズの試料合成はできなかったものの、得られたウィスカー結晶を用いて、各種の物性測定を行った。 Nb4(M, Si)Te4ウィスカー結晶はいずれも、金属的な電気伝導を示した。熱起電力については、熱電変換材料として有望な大きな値は現状では得られていない。このうち、Nb4(Co, Si)Te4の磁気抵抗は、磁場に対して直線的に増加する特異な振る舞いを示した一方、Nb4(Cr, Si)Te4とNb4(Fe, Si)Te4では負の磁気抵抗が現れた。負の磁気抵抗は、局在スピンによる伝導電子の散乱が磁場印加によって抑制されたことにより現れたと考えられる。また、Nb4(Fe, Si)Te4の磁化率測定により、転移温度15 Kのスピングラス的な振る舞いを観測した。一般にスピングラスは、局在スピン間に働く磁気相互作用が一様でない場合に現れる。Nb4(Fe, Si)Te4では磁性を担うFeと非磁性のSiがランダムに並んだ一次元鎖が形成されていると予想され、このランダムネスがスピングラスの原因となっていると考えられる。 本年度は、これらの物質以外についても、一次元ディラック電子系候補BaTiSe3の合成、反射率測定によるTa4SiTe4の電子状態評価、Ta4SiTe4関連物質であるTa2Pd3Te5、Nb2Pd3Te5、Ta3SiTe6の単結晶合成と物性測定についても行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標として、I. Ta4SiTe4系バルク試料の合成と熱電変換性能の最適化、II. 巨大熱電応答の発現機構解明、III. 一次元ディラック電子系の新物質開拓、の3点を計画した。このうち、Iについては、令和2年度にTa4SiTe4とNb4SiTe4の固溶体に対して、様々に元素置換した試料の合成に成功し、固溶体においてp型・n型の高い熱電変換特性を実現した。これは、本物質系を実用材料の候補とするために必要不可欠な過程の一つである。IIについては、令和2・3年度において、Ta4SiTe4の単結晶を用いて初めて反射率の測定を行った。それにより、一次元性が強く、非常に小さいバンドギャップをもつ電子状態に関する実験データを初めて得ることができた。IIIについては、新物質開拓の結果、Ta4SiTe4とよく似た特徴を示すTa2Pd3Te5とNb2Pd3Te5や、Ta4SiTe4と同じ結晶構造をもつNb4MTe4 (M = Cr, Co, Fe)を合成し、物性測定を行ってきた。また、令和3年度においては、新しい一次元ディラック電子系の候補物質であるBaTiSe3の単結晶合成にも取り組んだ。今後、これらの物質に対して様々に元素置換を行い、キャリア数やバンド幅を制御することにより、熱電特性の改善が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、以下の研究計画I~IIIに関して、以下の計画に従って研究を遂行する。研究計画I. Ta4SiTe4系バルク試料の合成と熱電変換性能の最適化については、まず、これまでの研究において反射率測定を行えていないNb4SiTe4の大型単結晶の合成を行う。また、令和3年度において合成に成功したNb4(M, Si)Te4 (M = Cr, Fe, Co, Ni)ウィスカー結晶についても大型単結晶の合成に取り組む。研究計画II. 巨大熱電応答の発現機構解明については、Ta4SiTe4に加えて、Nb4SiTe4の反射率測定を行い、光学伝導度を評価する。両物質の電子状態についての実験データを比較し、系統的に解釈することで、本系が低温で高い熱電変換特性を示す機構の解明に繋げる。研究計画III. 一次元ディラック電子系の新物質開拓については、現在合成、物性測定を行っているTa2Pd3Te5、Nb2Pd3Te5、Nb4MTe4、BaTiSe3、Ta3SiTe6に加え、さらなる新物質開拓を行う。
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