研究課題/領域番号 |
20H02607
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
本多 周太 関西大学, システム理工学部, 准教授 (00402553)
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研究分担者 |
安藤 裕一郎 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50618361)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 磁化反転 / マイクロマグネティクスシミュレーション / スピン軌道トルク / 純スピン注入 / ドリフト拡散法 / スピンホール効果 |
研究実績の概要 |
強磁性金属と重金属の接合において,重金属に電流を流すとスピンホール効果により重金属から強磁性金属へとスピンが注入される。注入されたスピンから強磁性金属の磁化がスピン軌道トルクを受け,磁化反転が起こる。我々は2軸方向に長い重金属リードを利用することで1軸方向のリードよりも高速に磁化反転が起こる方法を提案した。この方法の実証により高速な磁化反転に向けて最適化を行うことが目的である。当該年度には重金属リードから強磁性体へ注入されるスピンに注目し,磁化反転を検討した。 本年度は,SOT法におけるスピン流の流れについて理論的に検討,また実験では昨年度よりも小さな磁性体を用いた補助書き込みSOT法による高効率磁化反転を目指した。理論パートでは,スピンホール効果の項を加えたドリフト拡散法により重金属/強磁性体におけるスピン流を計算した。その結果,重金属から強磁性体へのスピン注入に,各金属のスピン拡散長影響していると考えられていたが,スピン拡散長だけでなくスピンに依存した電気伝導度も同等に重要であることが明らかになった。また,構造をメッシュに刻んでのキルヒホッフの定理によって,伝導の構造依存性を検討した。その結果,強磁性体のエッジ近傍でスピンが多く注入されていることが示唆された。これらの成果を基に,高速な磁化反転が起こる構造を提案した。提案はマイクロマグネティクスシミュレーションによって検討された。磁化反転実験では,昨年度に実験可能とした二つのリードを用いてパルス電流を印加しての補助書き込みSOT注入磁化反転の装置を用いて,より小さな磁性体における磁化反転を検討した。長さ1μmのパーマロイにおいて磁化反転を試みた。この場合も,1つのリードを用いた磁化反転よりも低電圧で磁化反転が実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理論シミュレーションパートと実験パートで並行して研究を進めている。補助書き込みSOT法の磁化反転シミュレーションと,提案の多方向スピン注入による磁化反転の実証実験はすでに完了した。実験においては従来型の1つのリード重金属からのスピン注入による磁化反転と比較して,2つのリードを利用したスピン注入のほうが10分の1以下での消費電力で磁化を反転できることを実証した。これは我々が提案した補助書込SOT法が磁化反転法として優れていることを示す結果である。実験結果はシミュレーションへとフィードバックされ,実験結果はシミュレーションにおいても比較的精度良く再現された。補助書込SOT法の実験再現とシミュレーションによる実証精度向上は当初の予定より早く進んでる。さらに,重金属から強磁性体へのスピン注入の解析計算を行ない,より高速に磁化反転が起こる機構を複数個提案した。重金属の構造やスピン緩和の特徴を利用することで強磁性体へのスピンの注入量を増大できることを示した。これらの提案は磁化反転実験と比較中である。補助書き込み電流の印加時間を制御することで高速な磁化反転が起こる最適な印加時間があることを明らかにするなど,シミュレーションでの磁化反転の検証は順調に進んでいる。このように,研究課題"補助書込SOT法による高速低消費磁化反転技術の開発とデバイス応用"に対して,当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
補助書き込みSOT法による高速磁化反転に向けて,磁化反転のシミュレーションによる最適化と実験実証をすすめる。1.磁化反転のシミュレーションにおいては,作成したランダウ-リフシッツ-ギルバート方程式に基づいたマイクロマグネティクスシミュレーションに補助書き込みSOT法によるスピン注入トルクを導入した磁化計算を実験と近い構造を用いて行なう。今年度に作成した伝導計算モデルも用いて,強磁性体/重金属におけるスピンの流れを検討する。補助リードと主リードのトルク印加時間のタイミング,スピンの注入量,スピンを注入する面,磁性体の形状などと反転時間の関係を明確にし,高速に磁化反転が起こる補助書込SOT法を検証する。重金属リードから強磁性体へのスピン注入の最適化を数値計算で検討,強磁性金属に最適なスピン注入が起こる構造を検討する。実験結果と相互検証し,より高速に磁化を反転させる機構を検討する。2.実験実証においては,SOT注入用の重金属リードを,これまでのPtから異なる重金属へ変更して,磁化反転を検討する。数100nmの直方体もしくは円柱形状のパーマロイを磁化反転対象の強磁性金属とする。長手方向に磁化したパーマロイの磁化を補助書込みSOT法により反転させる。高周波プローバおよび2端子出力パルス発生器を用いてパルス電流を印加し,補助書き込みSOT法による磁化反転を行なう。超真空に対応した成膜装置,微細加工装置を用いて作成可能となった補助電流SOT法を実施するデバイスを用いる。シミュレーションと実験結果を相互比較し,より高速な磁化反転を目指す。
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